うずくまる体を貫く風



別に教授はヴィオラを飼っているわけではない。
別にヴィオラがそうするように頼んだわけではない。
しかし“ヴィオラの為のもの”は教授の部屋どころか大学の研究室にも幾つか置かれていた。ヴィオラはそれを不思議に思いつつ、かといってそれを教授に言うこともなく、礼を言うこともなかった。

それが猫。

ただ有り難いと思ったときはゴロゴロと喉を鳴らした。




その日、ヴィオラは昼過ぎから教授の研究室にいた。自分の匂いのついたクッションに丸くなり、すぅすぅと寝息をたてる黒猫の邪魔をするものは何もなかった。無人の研究室は猫にとって心地よい温度に保たれていた。



ピク、リ。
ヴィオラの耳が動く。金の目がゆっくりと開き、猫は大きく欠伸した。
研究室の扉が開けられ、廊下の冷たい風に黒猫の体が一瞬震えた。


「ヴィオラ、帰ろう」


別にヴィオラは教授に飼われているわけではない。しかし教授は当然のようにそう言って、ヴィオラもまた当然のように彼の足下まで歩いていき、抱き上げられるのを待った。











教授の部屋に着き、リビングに入った途端、ぼわんとヴィオラのしなやかな尻尾が太く膨らんだ。


なんだコレ……


怖がっているわけではない。少しびっくりしただけ。なので尻尾はすぐに元の太さに戻ったが、代わりに警戒するように左右にゆらゆら揺れた。


「…あんたなんで机の間に布団はさんでんの?」

「ああ、コレ?こたつ」

「コタツって何」

「東洋の素晴らしい発明品だよ」


教授はそう言ってこたつに入り、カチリ、とスイッチを入れた。ヴィオラは訝しげな表情でこたつを見つめ、暫くすると自分で布団をめくって中に入った。


「……あったかい」


コレは本当に人間の為に作られたものなのか?
そう思えるほど、こたつの中は猫にとって実に快適な場所だった。その暖かさもそうだが、暗さも狭さもちょうどいい。


ヴィオラは箱座りして、黒目の大きくなった瞳を閉じた。ウトウトしてきたところでこたつ布団が少しめくられ、まぶたの上から明かりを感じた。


「膝来ない?」

「いかない」


睨みつけるようにそう言うと、ヴィオラは再び目を閉じた。布団が戻されたのかまぶたの上に闇がかかる。
机の上から新聞をめくる音がする。なんとなく安心して、ヴィオラは教授の足を枕にして眠った。








暑くなってきたら考えてあげる






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