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(―――――え?)
気づいた時には視界が変わってた。
(あれ、これ、押し倒されて、る?)
「テメェ……人がせっかく我慢してやろうって言ってんのによォ…」
そう言ってこちらを見下ろす土方の目が酷く男臭くて。
今すぐにでも食ってやるってそんな獣に近い視線に腰が疼く。
(…少なくとも、キモがられたわけではないかな)
その事実にも安堵しつつ。
ゆっくりと、土方の首に腕を回して
「ん、いっぱい触って?」
って言ったところで俺も本能のままに土方を求めたのだった。
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ひとしきり満足した頃にはすっかり日が暮れていた。
「そういえばお前、真選組辞めてどうするんだよ?」
「………………は?」
「だって土方は仕事をまっとうしようとしただけで、俺が悪いんだ…
俺、ゴリラに直談判しに行ってなんとかしてもらうからさ!!
だから!
土方は真選組辞めないでよ………」
土方がどう言おうと、俺が悪いのだ。
土方は土方の仕事をしただけの話なのに、その土方が辞めなきゃなんないっておかしいだろう。
(ここはやっぱりバナナでなんとか釣るか…
いやでもアイツならお妙の写真で簡単に釣れそう)
「そういえば、辞めるとかなんか言ってたけどお前…
俺、真選組辞めないぞ?」
「……………へ?…え?
いや、だって沖田くんが………」
「あー…………いや、正確には辞表は出したんだがよ。
俺達はの仕事は“現攘夷志士”の捕縛であって、“旧攘夷志士”を捕まえろとは言われてねーんだよ」
「それはゴリラから聞いたけど…」
「だから勝手に俺個人で動いて一般市民1人殺しかけたからな。
責任とって辞めるつもりだったんだが……
この通り、近藤さんに殴られちまってな。
『万事屋は万事屋なりにトシの事を想った行動だろうが!それを無駄にするな!!』って言われちまってよ……」
そういって頬に貼られたガーゼの上をなぞる。
「ゴリラ………」
「それでまぁ、真選組は辞めねーが謹慎処分はくらっちまってな。
暫くは事務に専念しなきゃなんねェ」
「………フツー謹慎中ってそういうのしちゃダメなんじゃないの?」
「まーな。
でも、俺が居なきゃこの組回んねーしな。
休んでる暇なんかねーよ」
「ハハッ!確かにねー。
…それじゃあ俺は、沖田くんに騙されたって訳かよ」
「まぁそう言うなよ。
アイツなりの仕返しだと思うぞ?」
「………仕返し?」
はて。
そんな仕返しされるような酷いことしただろうか。
「総悟は総悟なりに、銀のことが好きだったからな。
それが…俺のせいとはいえ、銀は死のうとしたんだ。
他にもチャイナやメガネ、総悟や他の皆が居るにも関わらずよ」
「…………………」
「俺の言えたセリフじゃねーが…
今生きてるからいいようなものの、テメーは自分を蔑ろにし過ぎだ。
もう少し、自分を大切にするこった。
自分の為じゃなくていい。
銀の周りの人間の為に自分を大切にしろ」
「………………おう」
先生も言ってた自分を大切にするってこと、強くなるってこと。
今やっと本当に理解出来た気がする。
昔から自分が、 “白夜叉”が 嫌いだった。
こんな色の髪も瞳も…
何もしていないのに、畏怖の対象にされて、嫌われて、殴られて。
皆と同じ普通の黒髪黒目がよかった。
それでも。
自分が自分を嫌いでも、自分が好きな人が好いてくれている自分のところ…
そこから好きになろう。
自分が嫌いでも、自分を好いてくれる皆から見た自分を好きになろう。
“白夜叉”も自分なのだから。
(高杉もわざわざ『俺が殺すまで勝手に死ぬな』ってねェ…
そんなに好いてくれてたんだなァ…)
「……………今度お礼しなきゃね」
「ん?何か言ったか?」
「べっつに!」
(…………先生。ありがとうございます)
貴方のおかげで、俺は皆を悲しませずにすみました。
心に傷を負わせずにすみました。
俺はまた間違えずにすみました。
(今度は俺が皆を護る――――!!!)
1人心に誓い、空を見上げる。
あぁ、今日も月が綺麗――――。
病院の方で患者が脱走して大騒ぎしていることを知って、急いで病院へ戻るも婦長にフルボッコされて入院が延長くるのはまた別の話である。