Cosmic Dance | ナノ

 笑っている瞳に隠す悲しみの色

あの時俺は手を取れなかった。あと少しだった。

今ではどれ位の人が覚えているのか分からないビックバンレベルの高濃度での核爆発。
通称「天変地異」が起こったのは戦闘の最中。

もう俺達は敵味方関係なく第二次攘夷戦争と噂されていたような、天人からの大奇襲により世界は破滅の危機に瀕していた。

攘夷志士も、真選組も、もう関係なくそいつ等と戦った。銀時もヅラも俺も周りの皆が、一緒になって手を組んで戦った。

だが最後の最後、あの時。もう少しだったのに俺は銀時の手を掴む事が出来なかったんだ。

「銀時!!」

あの時銀時は世界が崩壊してバラバラになってゆく仲間と一緒に、何もない光の渦の中に消えていった。

その時あいつは俺に何かを言っていて。だが俺は夢中で銀時の名前を叫んでいて。手を繋ごうと必死だった。だから、あいつの最後に何を言っていたのかは聞こえなかった。

そして新しい世界は、天人なんて存在がない時間だけが進んだそんなものだった。俺達はあの時天人と呼んでいた奴らは「地球外生命体」「UFO」「宇宙人」と呼ばれている。天人共存はない。俺が壊そうと、天人共存の幕府転覆を目指していた世界がそこにあった。

俺の野望は叶えられた。だが、その代わりか代償か。叶えられた夢の代わりに、この世界のどこを探しても銀時という白い侍はいなかった。

***

ボンボンの金や権力は持っている坂本の捜査網も、沢山の同志を率いる力を持つヅラの声掛けも、鬼兵隊率いる俺の声掛けにも銀時は見つけられない。だがそれでも、十年前仲間だった坂本とヅラと3人で銀時を探した。探して探して、夢中で探した結果。

学校も出ていない、どこにも働きに行っていない、保険証さえも持っていなかったから発見が遅れてしまった。
俺達が行き着いたのは、とある未成年者を保護する施設。名前も姿も、全部があのままの坂田 銀時がそこにいた。
ずっと銀時は一人でその世界で生きてきた。そういう事になっていて、先生の事、俺たちの事、江戸の事、万事屋の事、全てが銀時の中からなかった。だから俺達三人を見ても顔色一つ変えず、そして施設の人間でさえ心を開かない荒んだ状態だった。

「今日からお前の家がここだからな銀時」

銀時は俺が引き取った。持っていた荷物はとても少なくて、だけどその中に見覚えのあるものが一つ。

「そのしおりは・・・」

ヅラが銀時に問う。銀時が唯一大切そうにもっていたのは小さな長方形の手作りのしおり。しおりが問題じゃない、俺が目に留まったのは、そのおされた花だった。青い小さな花。その花は、あの天変地異の直前に俺が積んだ花。着流しの流水の色に似ていたんで、それを一つだけ銀時の為に積んで見せて「その色とそっくりだ」と言った。銀時は「なにー?晋助乙女〜」とはぐらかして笑っていたっけ。その花がしおりに加工されていた。

「桔梗か」

初めて銀時が顔色を変えて、そして目を合わせた瞬間だった。

「お前、知ってんの?これ」
「桔梗の花だ。高潔な花だな」
「・・・・」

銀時はあまり過去を話さない。施設の人にさえ心開かずずっと壁の隅で一人、そのしおりを大切に握りしめて目の色だけ強く、恨みを込めて周りを見渡していたと聞く。関係者の話によれば、銀時は飲まず食わずの状態でコンビニ等でで万引きを繰り返し警察の世話にばっかりなっていたという。未成年の銀時に身寄りはないらしく、しかも身分を証明するものやおろか保険証さえ持っていない状態らしかった。
初めて会った時は服も髪も、肌もボロボロに汚れ眼だけがギラギラと光っていたと話す。決して心を開かない銀時が知っているのは自分の名前だけ。そんな状態だった。

俺たち三人は銀時に色々なものを教えた。坂本が沢山の場所に案内し、ヅラが沢山の勉強を教え、俺は沢山の心の寄り心を与えた。

「また万引きしようとしたなこの馬鹿野郎が!」
「しょうがねーじゃん!癖なんだから!」
「反省の色なしか。謝るまで飯は食わせねえぞ」
「なんで謝らないといけないんだよ意味わかんねー!」

俺と、坂本と、ヅラと3人で銀時を普通の道に戻そうとして、必死に向かい合って、叱った。銀時はその間ずっとずっとしおりを離さずに握りしめて俺を睨み続けて。その繰り返し。何も持っていない銀時に色々与え、持たせたがそれらを放り出してしおりだけを握りしめる。

「待て銀時テメエ!!」
「あっかんべーだ」
「俺のヤクルト勝手に飲みやがったなこの野郎!」

銀時が笑って俺等の名を呼んだのは、出会って半年を過ぎた頃。休日以外皆が集まる機会がなく、予定も中々合わない時期が続いた。そんなのが続いて久しぶりに外で焼き肉でも食いに行くか、とヅラの提案に初めて笑ったのだ。

その後ハッとしてツンツンしていたが。
だが銀時の笑顔は、真正面からの笑顔ではなく。どこか偽っているような、まだ俺達を心から信用してくれていないような色で。

赤い目の奥に、冷たい闇が見えた。

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