早くし なさい
雨降りの夕方。俺は家に帰ったんだ。そしたら先生がばたばたと仕度している。
「銀時何やっていたんですか。叔父さんが亡くなったんですって。早くしなさい」と言う。
え?どこの叔父さんだと心で突っ込みつつも、とりあえず用意しようとしたら電話が鳴る。
「はい。もしもし、吉田です」
背後では一人何事か呟きながら動き回る先生の気配。どたばたと忙しくて、荷物を色々詰め込んでいる様子。そんなに急がないとなんねーのかって、溜息が出た。俺は今帰ってきたばかりだから一休みしたいんだけど。
「もしもし!俺だ、落ち着いて聞け!!いいか」
かなり切羽詰った口ぶりで相手がまくし立てるように喋っている。あれ、誰っけ。
叔父さんが亡くなった事を知らせるには変だし、なんか引っかかる声だ。
「死んだのは先生だ!振り向くな!俺が行くまで絶対振り向くな」
ああ・・・・高杉だ。確か去年大学に行ったきり戻ってきてない。たまに連絡はくれるけど会話するのはその時だけ。羽を伸ばして会う機会さえもまばらだったから、久しぶりに声を聞いて遅れて思い出した。先生が死んだ?何寝ぼけた事言ってるんだコイツったら。勉強しすぎて頭がパンクしたんじゃねぇのか?
え?
先生が死んだ?死んだのは叔父さんだろ?
急にドキドキしてくる。硬直して体が動かない。どうなってるんだ? 背後は静まり返りさっきまでの音はない。先生さっきまでどたばたしてたのに。
「なにやってるんですか。早くしニなさい」
耳元で囁かれ俺は気絶した。んだと思う。その後記憶はなく、電話の前で倒れている俺はその後先生に揺さぶられて起こされた。
先生は友達と出かけていたという。
じゃああの日家に居た先生は?高杉の声は間違いなく、高杉だし。
(それにしても高杉本当に連絡くれねーな)
(銀時、そんな事よりもほら。大好きな栗きんとんもらってきましたよ)
(わーい)
(私の箱入り息子。恋仲はお邪魔します)