頂きもの | ナノ

 目を背け続けて、崩れた音

ずっと、胸の中に何かもやもやしたものを抱えていた。
でも、ずっと、それから目を背けていた。
だって、俺は今、凄く幸せな筈なんだから。
銀時は、1つずつ幸せなところを上げていく。
住む所にもご飯にも困ってなくて、町の奴等は守りたいって思えるような奴等で、神楽と新八っていう可愛い子供達も居て。
うん、大丈夫。ちゃんと幸せだ。
銀時は、またしてもそれから目を背けた。


「全く、ほんといい加減にしてほしいですよね」
ぶつぶつと新八が文句を言っている相手は、銀時の幼馴染みの桂だ。
いつものように万事屋に来ていた桂は、来る所を真選組に見られていたらしく、こちらにも疑いがかかってしまったのだ。
「毎回手ぶらで来るなんて、非常識アル。万事屋来るなら酢昆布持参は常識ネ」
「いや、酢昆布を手土産に持ってくる人は少ないと思うよ。でも、本当にこれ以上は不味いですよ。僕等まで疑われてるじゃないですか」
まぁ、確かに。
前よりも、土方の探るような瞳は鋭くなっていた。
「銀さんも、来るのを控えるように言ってくださいよ」
「は?」
何で、そんな事を。
「だって、このままじゃ僕達まで仲間だと思われちゃいますよ。何にもしてないのに捕まるなんてまっぴらごめんです」
新八の言葉に、銀時が顔をしかめた。
自分達が困った時は桂に頼るくせに。銀時が思ったのはそれだ。
だが、新八達は面倒くさがっているのだと解釈し、表情を固くした銀時に気付かない。
桂達なら気付いてくれるのにと考えた銀時は、慌ててその考えを追い出すように頭を振った。
人間、1つ嫌なところを見付けると嫌なところばかり見えてしまうという。
落ち着く為に深く息を吐いた銀時は、新八達の良いところを上げようとした。
が、銀時は今度こそ表情を固まらせてしまった。
良いところ。新八達の、良いところ。
住む所にもご飯にも困ってない。
天人と共存するようになったのだから、この容姿のせいで迫害されるなんて事が無いのは当たり前。
町の奴等は守りたいって思えるような奴で。
守るようになったきっかけって、必要無いって言われないように、町の奴等を好きになれるようにってのだった。
神楽と新八っていう可愛い子供達も居て。
こいつ等と一緒に居るのを、俺が望んだ事なんてあったっけ?
「…………あれ?」
俺、何でここに居るんだろう。
“幸せの証拠だと思っていたモノ”が、1つずつ消えていった。
最後に残ったのは、銀時の中にあった、ずっと目を反らし続けていた神楽達への不信感、不満、嫌悪感だけ。
すぅっと銀時の表情が消えたが、それに気付く人物はここには居なかった。

その日の夜、銀時は恩師から貰った刀と教本だけ持ってとある場所に向かっていた。
「しん…」
迷子の子供のような顔をした銀時は、鬼兵隊の船に忍び込み、高杉の所へ来ていた。
銀時のその表情に一瞬目を見開いた高杉だが、すぐに優しい笑みを浮かべて銀時を手招いた。
高杉の方へと近付いた銀時は、ぎゅうっと高杉に抱き付いた。
「も、やだ。つかれた。きらい、きらい。やだ」
幼子のように嫌いと繰り返す銀時の髪を、高杉は優しく撫でる。
ゆっくりと、高杉は銀時に問い掛けた。
「何が嫌なんだ?」
「あいつら、や。いや。きらい。きらい。いや。も、つかれた」
「俺の事も嫌いか?」
高杉の言葉に、高杉の胸に顔を埋めていた銀時がバッと顔を上げる。
「ちがう!しんは、きらいじゃなくて、すき!すき、きらい、ちがうもん」
「なら、いいだろ?」「ふぇ?」
とうとう泣き出してしまった銀時の目尻に口付けを落としながら、高杉は諭すような口調で続ける。
「ここには俺しか居なくて、嫌いな奴は居ない。俺に言ってる訳じゃなくても、嫌いって言われんのはあんまりいい気はしねェからな」
キョトンとした表情をした銀時は目をぱちぱちとさせて、こてんと首を傾げた。
「しんだけ?」
「あァ、ほら、見てみろよ。他の奴は居ないだろ?」
高杉の所へ来る事しか頭に無かった銀時は、ようやく辺りを見渡してここが高杉の私室だと気付いた。
自分と高杉しか居ない事を理解した銀時は、へにゃりと笑う。
「へへへ~、しん、すき。すきだよ~」
「あァ、愛してんぜ」
「ぎんもね~、あいしてるよ~」
酔っぱらいのような、ふわふわとした言動に高杉は内心首を傾げながらも銀時を抱きしめる。
むふふと笑う銀時に、とりあえず事情を聞くのは後にして、今は銀時を甘やかす事に専念しようと高杉は銀時の髪に口付けた。


それから一週間程経って、ようやく万事屋の子供達が動き出した。
翌日に動いたとしても手遅れだったというのに、あまりも遅すぎる。
子供達の様子を見張っていた人物は、静かにその場を去った。
そして銀髪の人物が鬼兵隊に居るという情報を掴んだ子供達は、銀時が囚われている!なんていう的外れな推理をして鬼兵隊へとやって来た。
当然、銀時の所へ行く前に子供達を監視していた集団・百鬼夜行が立ち塞がったが。
「はいはい、ストーップ!何勝手に不法侵入してるわけ?何か用?まぁ、用が有ろうが無かろうが聞く気は無いけど」
「銀ちゃんは何処ネ!」
「銀さんを返してください!」
「は?返せ、って。あの人は物じゃないんだから返すも返さないも無いから。何処に居るかは、あの人が決める事であって、お前等が決める事じゃ無い」
分かったら帰れ。
しっしっと犬猫を追い払うように百鬼夜行の隊員・立夏は手を振った。
ここで彼の作った機械が出てきていないあたり、立夏にもなるべく穏便に済ませようという気はあるのだろう。
「銀ちゃん閉じ込めてるくせに、何を言うアルか!」
「閉じ込めてなんかないって。てか、あの人を閉じ込めるとか俺等がする訳ないじゃん。高杉サンじゃあるまいし」
あの人ヤンデレっぽいとこあるから、と聞いてもいない情報を話す立夏。
「高杉さんの命令で動いてる訳じゃないんですか?」
「当たり前じゃん。俺等が従うのは隊長様のみだよ。で、その隊長様ってのが、お前等の言ってる“銀さん”なわけ。この意味分かる?」
立夏達が従うのは銀時のみで、その立夏達が新八達の足止めをしている。
誰が指示したかなんて、答えは1つしか無い。
ここで素直に納得していれば良かったのに、子供達は帰ろうとしない。
「嘘言うなヨ!銀ちゃんは、私達の家族アル!何も言わずに居なくなるわけ無いネ!」
「はぁ?」
神楽の言葉に、立夏が表情を消した。
元々、百鬼夜行は気の短い連中が多い。特に、銀時に関する事には。
そして、今回神楽達の前に居る立夏は嘘がつけない、子供っぽい性格だった。
嫌いな人間とは話していたくないし、嫌いな人間に自分の好きな人が近付くのも嫌。道理が通っていなくたって、嫌なものは嫌だと騒ぐ性格。
そんな立夏に対して、それは禁句だった。

「家族?誰が?お前等と隊長様が?冗談も程々にしろよってか、冗談でも殺すぞ」
「てか、じゃあお前等は家族から金取んの?給料貰うの?それどんな家族だよ。家庭崩壊してんじゃん」
「俺等は隊長様に金を要求した事なんか無いし、見返り無くても隊長様の為なら動くし、そんな俺等でも隊長様の家族になれないのにお前等が家族?笑わせんな」
「つか、笑えねぇよな。隊長様に守ってもらってばっかだったお前等が隊長様の家族になろうなんざ烏滸がましいにも程があんだよ」
「俺等は隊長様を守ってきた。隊長様の手足となって動いてきた。だから、百鬼を名乗れてんだよ。で、お前等は何をしたワケ?」
「隊長様の敵を殺した?隊長様の望む情報を集めた?隊長様の望む物を見付けた?お前等は、隊長様に何をした?」
「隊長様の所に押し掛けて、隊長様が優しいのを良いことに勝手に居着いた。それだけだろ?」
「護衛として役に立つわけでも家政婦として役に立つわけでも無い。って、あれ?お前等、何が出来んの?」
「俺等だって隊長様と一緒に居たかったのに隊長様がそれを望んでなかったから我慢したのに隊長様の側に居んのがお前等って何それ」
「何かあった時だけ頼って何も無い時はマダオ扱いとか死ねよ。誰がマダオだ、隊長様程素晴らしい人なんか居ねぇっての」
「お前等の家族の定義ってなんなわけ?一緒に居ればそれで家族?それなら俺等の方が一緒に居た時間は長いっての。調子乗んなよクソガキ」
「勝手な理想押し付けてあの人自身を見ようともしない奴等が隊長様の家族を名乗んな。つか、隊長様に話し掛けんな隊長様を見んな隊長様の名を呼ぶな!」
「もう要らないよな生きてる価値無いよな。よし殺すさぁ殺す今すぐ殺すッ!」

「はぁ~い、そこまで~」
瞳孔の開いた瞳で新八達を睨む立夏が思い切り腕を降り下ろそうとした時。
立夏の後ろから、のんびりした声が掛かった。
その声を聞いた立夏はハッとした表情になり、振り上げていた手に持っていた物を懐に仕舞う。
「もぉ、ダメじゃん立夏ってば~。殺したら隊長様に叱られるじゃんか~」
「コイツ等がムカつく事言うのが悪いんじゃん」
後ろからやって来た同じ百鬼夜行の隊員の如月の登場に、立夏は唇を尖らせた。
その表情は、先程とは百八十度違う。
「はいは~い、じゃ~あ、天人と人間の子供、ご案内~」
「ちょっ、どういう事だよ、如月!まさか隊長様に会わせ…」
「るわけないじゃん。どーせ俺達が言っても信じないだろうしぃ、見た方が早いってだけ~。ほら、行くよ~。あ、余計な事したら何処からか毒針が飛んでくるよ~」
「何処からかって、犯人絶対お前じゃん」
「そ~とも言う~」
先程の雰囲気とは一転、和やかに話す二人に、神楽達は混乱を隠せない。
だが、この二人に着いていけば銀時に会えると、二人の後を着いていった。
あの時に素直に帰っていれば、まだ希望はあったかもしれないのに。

二人に連れてこられた場所からは、高杉と二人で話している銀時の姿が見えた。
何を話しているかは分からないが、脅されているとか、そういうのでは無さそうだ。
だって、高杉と話している銀時の表情は、見た事が無いくらい幸せそうだ。
甘えるように高杉の胸に頭を押し付けて、撫でてもらっている。
「う、そ……」
思わず零れた声に、立夏が反応する。
「ウソじゃないって。あれは正真正銘隊長様」
「隊長様ね~、疲れたんだって~」
「え…?」
疲れたという言葉に、子供達が如月の方を見る。
「好きになろうと努力するのも、守るのも、ぜぇんぶ、疲れちゃったんだって~」
「もっと早くに気付いてたら、愛してもらえたかもしれないのに。バカな奴等」
今まで信じていたものが、音を立てて崩れた。




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「刹那的な世界」の刹那+様から頂きました。恐れ多くもリクエストして頂き、キリリク優先でのんびりお待ちしていたら、光の如く上げて頂いた作品です。
「百鬼夜行」というのは刹那+様の銀魂小説に登場するオリジナルキャラクターであり、鬼兵隊と協力して銀ちゃんと共に過去攘夷戦争にて活躍なさった方々で構成された精鋭部隊です。それぞれのキャラが濃くて、かっこよくて、皆男性のみで構成されています。
隊長様を崇拝し隊長様の為に動きますキャラの詳細は刹那+様のサイトへどうぞ。
立夏さんかっこいい。惚れそう。
刹那的な世界
「memo」に小噺・設定がありますのでそちらをご覧ください。シリアスやほのぼのを書かせれば天下一品です。
きっと子供たちは自分達に原因があるなんて分からないんだろうな。
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