キキッと鈍い音を立てて車が廃れたモーテルに停まる。車を降り、手早く受付を済ませ、安っぽい鍵を受け取り、これまた安っぽい部屋に入る。一通り部屋を見渡し、彼女に先にシャワーを使うように言う。思った程汚くはない。
どれだけの距離を走ったのかは定かではないが、蓄積された疲労が襲う。それでも、まだ、足りない。きっと何処まで行っても、頭の中で鳴り響く警告音は消えないのだろう。逃げろ、と煩く鳴り響く。
「明日は何処へ行くの?」
シャワーを浴び終わった彼女がふと、尋ねる。
「何処へでも」
(君の望む所へ)
「南に?」
「北でも」
「東は?」
「西でも」
彼女は嬉しそうに笑う。
「愛してる」
「兄さん」
「名前で呼んで」
僕の名前を呼ぼうとした妹の口を塞ぐ。
誰よりも幸せから遠くて近い僕等。
(神様なんて、信じない)
空が鳴っている/東京事変