甘さに逆上せる







暑さはどうしてこうも人をおかしくさせるのか。デジタル表示の温度計を見やると不快指数もいいところの数字だった。暑さに意味もなく苛々とさせられ、その予先の当たり所もなく気分は憂鬱にさせられる。涼を求めて冷蔵庫に手をかけて、右下二番目の冷凍用の引き出しからアイスキャンディーを取り出した。霜がかかっているそれは程好く低温で体を冷やすのには丁度いい。カカオの甘い薫りが鼻を通って、欠けた部分からバニラが顔を出している。とても美味しい。





『……暑いぞ』


多少、怒り気が入ったその声は私の後方からした。こちらも、この暑さに少し苛ついている様子。エアコンの冷房は電源を入れたばかりでまだ風は廻って来ずに、部屋の蒸し暑さは相変わらずだ。コピーロイドに勝手にプラグインしている彼も眉を寄せている。気温によってコピーロイド内部の機械熱が増して本人も暑いのだろう。いつもの覇気も少し失くして、気怠さが見える。ようするに彼も私も、夏バテだ。



「アイス食べる?」

『…』

「これでいい?」


何も言わないのは肯定だと、学習済みの私は同じくアイスキャンディーを手渡す。これはクラッシュチョコがまぶしてあって、中身はビターチョコがベースの少し大人の味。私お気に入りの味だからきっと彼も気に入ると思って、差し出すと素直に受け取ってくれた。冷蔵庫にはもう用がないので、近くのソファに腰かけて今は至福を味わうことを楽しんでいる。喉を伝って流れていった冷たさは火照った体を冷やしてくれた。



「暑いねぇ…アイス美味しいからいいけど」

『…』

「うん、フォルテと食べるアイスって格別」


ただの市販の物なんだけど。言っておきながら自分で苛んで、もう形が殆んど無くなっていたアイスを終わらせた。何もすることがなくなったので、まだ口に含んでいるフォルテに腕でホールドすると迷惑千万とも言いたげに無視を決められた。愛情のアントニムは無関心だとは正にこの様だ。





『……貴様は、名前1は、俺が特別なのか』

「えっ」



今まで寡言だった、突然のフォルテの言葉に一瞬何を言われたか分からなかった。慌てる私に何やら満足そうな彼は食べていたアイスキャンデーを私の口に突っ込んだ。間接キスなんて比にならない。羞恥と至極混乱に狼狽させられ、そのうちにアイスは口の中で完全に溶ける。舌に残る味は甘い。


とてもじゃないほど暑かった。そろそろエアコンは新しい物に買い換えなければいけないだろうか。


2010525



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