その言葉が嫌い




遅めの晩御飯を取る名前1を卓上に置かれたPETの中から無意識に眺めていた。視線に気付いたらしい名前1がPETを手に取り、液晶画面のアイコンを一つ触れると俺はホログラムとして強制的に現実世界に引き寄せられる。最初こそは癪に触る思いだったが…忘れた。名前1はシーザーサラダが盛り付けられた皿に手を伸ばしながら俺に話しかける。明日の天気はどうだとか、野菜が美味いだの実に共通性も見当たらない話題ばかり。下らないお喋りに適当に相槌を打って、適当に流す。この退屈極まりない時間に慣れてしまったような感覚が酷く腹立だしい。サラダが無くなった頃の名前1は満足そうに俺に向かって目を細めた。



「フォルテ…おやすみ。遊びに行くなら気をつけて行ってね、怪我して帰ってきたら駄目だよ。」



(眠りに就くらしい。)羽根布団に潜った名前1に何度も耳にしたことのある言葉を聴かされる。俺は強く睨み付けるとリンクされている窓に入ってその場を離れた。俺が人間に心配されるほど脆弱そうに見えるかと先程放たれた言葉に苛々する。運悪く目の前を横切ったキオルシン一匹を消した。



**




名前1に言われた通りにURLを辿って端末機に戻る。何に惹かれて戻って来てしまうのか自分で自身が分からないことになっていた。愚かしい己にまた苛々していると、目覚めたらしい名前1が布団から顔を出す。名前を呼ばれたが会話する気は毛頭ないため黙ることを決める。何が嬉しいのか名前1は俺を見てやはり目を細めた。そして言葉を声にする。



「―おかえり…、フォルテ。」


耳が拾った言葉に眉間を寄らせた。俺はこの一言に酷く虫酸が走る。嫌いだ。この言葉が、強く在りたい自分を弱くしてしまう。



その言葉が嫌い


2010408




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -