無彩色








目の前の翡翠色の目にはなにも映っていなくて、私さえ彼の視界にあるのか不安に思った。仕事中や人と接する時など普段から、落ち着いた色を持っていたが、今の彼には"無"そのものを灯してしまったような様子だ。




「どう、した、の…」



あまりにも彩度の低いその目は抜け殻というか傀儡人形のように光彩を帯びていなく、幾らレプリロイドの人工的設計と云えどもおかしい。イレギュラーを狩るときの燃えるような、地球再生を目指す温かい、あの美しいエメラルドは何処へ。私が戸惑いを含む声を発すと宙に向けられていた彼の視線がこちらへ向いた。



『エックス、さまに……』


「ハルピュイア?」




彼の言葉の先に、私も唖然とした。彼の声色に憎しみと絶望が伺えてどれほど応えているか知った。エックス様が…いや、バイル様がか。そんな、彼は人類の平和を渇望してこんなにも尽くしてきたのに。突然の不要宣告と側近の入れ替えにショックを隠しきれない。勝手な同情は失礼だと頭では分かっていたのに、私の目頭は熱い。頬の滴を拾ってくれる彼の指先が優しくてより溢れそうだ。でも、今のこの優しさは自身の為に使ってほしかった。




『名前1』


「うん…」


子供のように駄々をこねても過去は帰らない。いた堪らなくて温もりが欲しいと頭で思っていた丁度、ぐんと体を引き寄せられた。目に映るは緑。前途の絶望に打ちひしがれる彼は震えている。愛してると声を出せば、一層抱き締められている感覚に心がじんわりと傷んで、私も彼にしがみついた。





2010609




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