(……森には人間なんていないから、大丈夫だよね?)


自分にそう言い聞かせ、夏希は身を隠すため森に入った

森の中に入ってからは少しスピードを緩める

辺りに鹿や小動物の気配があるのを感じ、夏希はそちらに足を向けた

飢えを、乾きを潤す為にはこの方法しか無かったのだ


そして獲物を見つけた
狩りは
簡単だった



全ては一瞬で終わった
他者の命を自らの手で奪う事も、血を飲む事も

鹿に食らいついていた時、腹が満たされる感覚に酔いしれていた


―――……あぁ、熱く滑らかな血潮

すこし物足りない気もするが、まぁまぁ満足だ


口元の血を腕で擦り落としながらそう考えると、夏希は次の獲物を見つけ食らいついていた


何匹か狩った後、ようやく落ち着いた夏希は辺りを見渡す


田舎に住んでいたから森は見慣れていたが、森の中にここまで入った事は無かった


珍しげにキョロキョロと辺りを見渡す夏希辺りに人間が居ない事を知っているから、無防備なままでいられるのだ

発達した全ての器官が“ここは何も無い”と教えるのだ



「……スゴいけど、怖い」


身体が異様に発達したせいで、自分の体なのに恐れを抱いてしまう

血の匂いが漂うこの場所で、少女は立ち尽くしていた


頭の中でぐるぐると思考が巡り、終わる事のない穴の中に落とされたようだ


美しい彫刻のように夏希の体は静止している

が、その美しい身体が瞬時に消え失せた

すぐ近くに気配を感じ取ったからだ ……なんだろう、動物でも人間でもないモノがいる

それに…………



「くくくく」



背後から不気味な笑い声が響き渡り、夏希の背筋に嫌な汗が流れる


持てる力を全て足に使い、背後から迫る“敵”から逃げる


が、敵は一定の距離を保ったまま着いてくる


冷や汗が止まらない
心臓が嫌な音をたてる


どうする、どうすればこの窮地を抜けられる……!?


頭で最善の方法を探すが、良い案は浮かばず、最終的に戦闘にいきついてしまう



「娘、なぜ逃げる
お前は我の仲間だろう……?」


夏希との距離を難なく縮め、背後の敵が囁く

勢い良く振り返ると、2メートルほど後ろに、男がいた


夏希はその男に見覚えがあり、固まる



「!昨日の」


そう、後ろにいたのは昨日夏希を吸血鬼へと変化させた男だったのだ



「くくく」


何が面白いのか、男は不気味な笑い声をあげる



「娘、生きていたようだな
どうだ、新たな身体は…?良いだろう、世界が美しく見える」


この言葉を聞き、夏希は走る事をやめ、後ろを振り返った


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