時は流れ、桜泉(おうせん)に身を任せていた宝華は、宮に入ってくる気配を感じた


(……誰かしら?)


不思議に思いながら、宝華は桜泉から出ようとはしなかった

気配は真っ直ぐにこちらに向かってきているので、宝華は泉から顔だけを出し待っていた


「母様!どうしたのですか?」


現れたのが自分の母親だったので驚いた


「ハクがの、」


苦笑いを溢す母に、宝華は恥ずかしくなった


ハクったら母様に言って!私は別に平気なのに


「久しく宝華にも会ってなかったゆえ、母は嬉しいえ」


「わ、私もです、母様!」


慌ててそう母に告げる宝華は、いつもと比べると幼く感じる

やはりそれだけ母親というのは、偉大なのだろう


「ハクは勿論じゃが、みなが心配しておったぞ

妾の宮に詰めかける程にの」


「ッ!」


笑みを浮かべながら話す母に、宝華は俯く

話の内容にも勿論驚いたが、それよりも喜びが勝っていた


(……私は、大切にされている)


そう、実感できた


苦しくて泣きたくて、
叫んだとしても、意味がないことは分かっていた


だから何もしなかった

体調を崩す程に、悩んでいたのに、母の一言でそんなもの吹き飛んでしまった

我ながら単純だ、とも思うが、何よりも嬉しかったのだ


母が、会いに来てくれたこと
ハクの優しさが、みんなが、私を心配してくれたことが――。


「……母様、ありがとう、ございます」


「可笑しなことを言うの。母が娘を心配するのは当たり前じゃと言うのに……」


花が弾けるような笑みを浮かべながら、母は私の頭を一撫でする


「……宝華は独りではない
そのこと、忘れるでないぞ」


慈しみの表情を浮かべる母の言葉が、嬉しかった

母の視線を追うと、入り口にハクを筆頭にした聖域に住む者たちがいた


「ふふふ、愛されておるの」


「〜〜〜〜〜〜っ!」


慣れない優しさに触れ、私は頬を赤く染めるのだった






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