次元を考えれば遠くて、見ただけの距離を考えれば近いこの距離。
俺をゴミ箱から拾い上げた現マスター・名前は、俺を歌わせるのではなく、話し相手にしている。それで満足して、たまに歌をくれる……完全に俺の主旨を無視している、今までにいないマスター。

そんなマスターに恋心を寄せてるなんて、バレたらミクやリンレン達は引いた目で俺を見るんだろう。


「なぁミク、お前マスター好き?」
「名前ちゃん? 大好きだよ!」
「そっか(マスターを名前でちゃん付けか)」


ミクとは信頼出来る繋がりがあるから自分の気持ちを相談してみようと思えたけど、きっと聞いたミクは俺の気持ちもlikeだと思っての意味で「クオ君も好きなんだね!」って言ってくるんだろう。
それじゃダメなんだ。俺が今必要としているのは本当の相談に乗ってくれる相手…

でも誰かに相談した所で、俺はどうする?
マスターに告白するって訳にもいかないし、俺が消えたってマスターはきっと色んな所にあたって復元させるだろう。
今の関係が丁度良いのかな この関係も壊したくない
機械にはない筈のココロがあるような錯覚を覚えるこの自分のはっきりと出来ない気持ちを俺は胸に溜め込み続けた。誰にも漏らさないように蓋をして。


「ただいまー」
「おかえり」


バイトから帰ってきたマスターに向かってミクも双子も飛び付くように走っていった。
自分も同じように行けば俺もあんな笑顔を自分のモノに出来たのかな。出来るものならやってる、ほんとはもっと傍にいたい。

もっと………


「…………クオ、ミクオ!」
「ッ! 何」
「何じゃないよ、ミクオに曲つくってきたの!」
「男性ボーカルならレンがいるだろ、なんでわざわざ俺なんだ」
「この歌はミクオに歌ってほしいの!」


満面の笑みは俺の胸を突き刺す。痛くて、とれなくて、毒のようにじわじわと広まるこの感じ…好きが増していく。
抱き締めたい、この腕いっぱいにマスターを感じたい。頭を撫でて、体全体でマスターを、自分が思うままに抱き締めて……

何て馬鹿げた妄想をするくらい俺も暇なのかな。

俺は2次元歌手で、
マスターは3次元一般人。


「マスター、俺さ……今、恋の歌唄いたい気分なんだ…マスターに向かって」



ワンステップ・レイヤード

(咎める言葉など無視して)

H'23.08.31