「ねぇねぇ、志摩くん!」
「何や?」
「志摩くん何気運動神経良いよね」
「まぁそれなりには動けるで、護身用のとか戦闘中でも動けるようにせなアカンからね」
「さすがキリクの使い手!」
好きな子にはやっぱ名前で呼ばれたい。
なのに呼んでくれないのが、名前ちゃん…
奥村くんや坊の事は名前呼びなのに、俺は名字呼び
なんやの 好きなのに…
「りーん!!」
「おう、名前 頼まれてた弁当作ってきたぜー」
そんな会話を見せ付けられて俺の雰囲気が一瞬にしてガタ落ちしたのがわかった。
嬉しそうに奥村君の手作り弁当を受け取った名前は、まだ弁当の時間というわけではないのにその包みを緩め始めふたを開けた。
ソレを目を輝かせながら見る名前に何だか胸がソワソワする。コレは一体どうすればいいんかいな…何処に、誰に吐き出せばいいん?
そんな目で見ていたのに気付いたのか、名前は食べる口を止め、目線を上げた。
「どうしたの志摩君、なんか怖い」
「どうもしまへ「あ!志摩君も食べたくなったんだね、燐の弁当。燐の美味しいからねー欲しくなる気持ちわかるよ!」
縁起悪うのにタコさんウインナーを箸で刺して俺に向けた。
この可愛らしいタコさんウインナーも名前の手作りだったらがっついて食うけど、現実は違くてコレは奥村君が作ったタコさんウインナー…確かに奥村君の料理は上手いけど、今はいらん。
「奥村君が嫌そーな顔してコッチ見はってるさかい、ちゃんと名前が食いーな」
「ん? 燐みてないじゃん、志摩目ェ悪いんじゃない?」
名前が振り向こうとした瞬間に瞬発的速さでうつ伏せになった奥村君を見たのよ、名前。
まぁそんな事言う気にもならへんけど。
「でね、聞いてよ志摩君!」
それから始まった話は全部男の話、坊の話、若先生の話、また奥村君の話……相づちもせずただ聞くだけ、それなのに名前の口はずっと止まらない。奥村君の弁当も減らなくなった。
止まった手に握られている箸を掴み取り玉子焼きを挟み名前の口に突っ込んだ。むせない程度に。
「なぁ名前、あんさんは見た目によらずやる事エグいなぁ。俺だけ名字呼びやし、目の前で弁当受け取って食べて、焦らしプレイが好きなん?」
溜めてきたモノを吐き出すかのように次々言っていくと、名前は口をもごもご動かし玉子焼きを食べた。
「志摩君って志摩が名前じゃなかったの?!」
思わず吹いた。
俺の名前、志摩思ってたからずっと志摩呼びやったんか!
まだわかっていない名前のおでこにデコピンした。特に痛くない程度やさかい、名前はむくれるだけだった。
「俺の名前は廉造や、志摩は名字や」
「ふえ?そうだったの?」
やっちゃったいう顔で俺を見つめる名前はホンマかあいー
そんなポケッとされるとちゅーしたなるわ
「なぁ、名前、謝罪の言葉はいらへんからちゅーさせて」
まだぼーっとしていて返事がない名前
椅子から立ち上がり前のめりになると名前の唇に自分の唇を押しつけた。
塾の皆の視線が俺達に集まる。
唇を離した瞬間名前の顔がみるみる真っ赤になり、椅子と共に倒れた。
「名前?!」
僕の名前は、 (廉造です)
H'23.06.12