「弁護士だとかそういうのに世話になるのめんどいだろ」
「弁護士は関係ないけどそういうのにちゃんと噛んでもらったほうがいいんじゃないですか」
 財産分与の話である。日佐人の娘が泊まりに来ているのだ。こいつにも将来的には金が行くようにしたいみたいな話を、キッチン、本部近くの放棄された家を買いとった一軒家の一応ちゃんと分かれているキッチンでだらだらそれぞれのつまみでそれぞれの酒を飲みながら、しゃべっている。昔は誰かの家だったそこを買い取ったことで誰かが金を受け取った、売りたくなかった家でもちゃんと受け取った、そういう形で家を持てたことに関しては、気に入っている家だった。それ以外は本部に近すぎていつ潰れるかわからないリスクのみが高かった。近界民を斬ったとしても破片はばらばらと落ちてくるのだ。いつだか太刀川に「ここがオレらの家だから」と言ったら、「グラスホッパー常駐させとこうぜ」という返事だった。そういう仕組みじゃねえだろ。というか足がかりにする前提で話を進めるな。
 正確には、日佐人の娘は、泊まりに来ているのではなく、家出してきている。
「おじさんたちゲイだから、女べつに好きじゃないんでしょ? ちょうどいいじゃん?」と言われて、もちろん日佐人の娘を食うつもりなど毛頭なかったが実をいうとおじさんたちはゲイではなくてバイで、どっちも童貞を切ったのは女だった。ほとんど反射でしゃべりすぎるきらいがあいかわらずある諏訪は「残念ですけどなあ、堤さんのことは知らねーけどおじさんは女でも勃つから危険だよ!」と言い返した。大地は予定調和として、「アンタ日佐人の娘になにいいくさってんですか正気か、ちんこ撃ち落としますよ」と言った。娘はげらげらと笑った。「大丈夫なんじゃん?」たしかに。
 たしかになんの問題もなかった。というか諏訪がいまだに女と寝られる体なのか、ケツの穴をほじられる以外の方法で射精ができるのかあやしいと大地は思う。そんなわけがないのではないか。あるいはそんなわけがないと大地が思いたいだけかもしれなかったが。
 ときどき諏訪は女と寝ている。それを大地は女から知らされて知っている。諏訪のほうの記憶はないようだ。いつも泥酔しているのでないようだ。どろどろに泥酔した夜、女をつかまえて、俺の子供を産んでくれよというから困る、産むわけないじゃんね、あたしピル飲んでるから生でもいいしけっこういい男だから遊んであげたんだけどこいつもうちょっと首にひもつけといたほうがいいんじゃないの旦那さんさあ。そんなふうに言われることが(ピルを飲んでるから、は、コンドームはつけさせたけど、だったり、危険日じゃなかったから、だったり、まあいろいろだったが)数回。旦那さん、という言葉にはきちんと揶揄が含まれていた。孕むことのできる生き物たちはそうやって暗に拒絶を示して帰っていき、大地は、諏訪は愛されやすくてだめだなあと思う。あんなふうにきちんとタクシーで送り届けてタクシー代を請求してきちんと帰っていくような女ばかりひっかけるのはようするに諏訪の人徳でしかないのでだめだなあと思う。
 その諏訪は年を食ってもあいかわらずキンキン冷たいばかりのビールを好んで飲みながら、目を細めて大地を見ている。
「なんですか」
「俺が好きすぎて死ぬみたいな顔」
「はあ」
「すんのやめろっつってんだろ何十年も」
「十何年くらいじゃないですか? やめません。好きなんで」
 勝ってうれしいはないちもんめ。たんすながもちあのこがほしい。
 俺が欲しいのはおまえの子供であって俺が誰かに産ませた子供じゃねえはずなんだけど。頭をかきながら諏訪は言う。そういった口で、日佐人の子や瑠衣の子の名を口にし、「孫に金を回せるようにやっぱ貯金要る」と言ったりする。孫というのはその子供たちのことで、ようするにこの男はそれなりに満足しているのかもしれないと思いながら、俺はふたりきりでもぜんぜん、いいんですけどね、諏訪さん、
「アンタが好きなんで」


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -