日佐人は麻雀をするとき(というか巻き込まれるとき)ものすごく真剣に卓にとりくむので、ほかの三人(大地もまた巻き込まれている)は自然と小さな声でぼそぼそと喋った。負けるのはだいたい大地で、わかりきっているので賭け麻雀を諏訪隊はやらない。俺らみたいなの相手にして楽しいかとだいたい一番勝つ小佐野に訊いたら、そういう問題じゃねんすよという答えだった。ようするにコミュニケーションということだろう。
「結婚したら」
 そう言ったのも小佐野だった。
 一拍おいて、諏訪の口から煙草がおちた。落ちた煙草が卓にたどりつくまえに大地はそれをキャッチして、諏訪の口にもどした。赤ん坊のように口にくわえさせられたあとで、しかし諏訪は文句も言わず、ぽかんとしていた。
 江戸式の結婚式を挙げてもらえる神社について話していたのである。いいなあ、見てみたいなあと大地は、もう負けが決まっているものの気軽さでぶつぶつと言っていた。誰か挙げなきゃ見れねえだろというのが諏訪の返事だった。考えてみたら、予定調和みたいな、見え見えの釣りみたいな会話をしていた。気持ち悪いほどに。気持ちわるいほどだっただろう、小佐野は呆れすら見せずに、
「結婚したら」
 と言った。
「は?」
「ふたり。てか、なんで結婚しないの? 一緒に住んでんでしょ?」
「住んでねえ」
「いつかれてるだけ、家賃ももらってない」
「堤さんもさあ、そのへんちゃんとしないとだめじゃんね。諏訪さんもマジ甘えんな」
「おっしゃるとおりでおサノは偉い」
「えらいっしょ」
「うるせーよ」
 ぶつぶつと諏訪は言った。諏訪はなにかを思案しているという表情で黙り込んで、捨てる牌をとちって、その回一番負けた。どうもそのあとずっと考え込んでいたらしい諏訪は、小佐野と日佐人を送り届けたそのあとでぽつりと、
「するか」
 と言った。
「するんですか」
「考えてたんだけど」
「はい」
「しねえ理由がないつか」
「はあ」
「財産分与とかあんじゃん」
「アンタ貯金あるんですか」
「学資貯金」
「……はあ」
 あれマジだったのか。いつだったか冗談めかした口調で学資貯金を貯めて子供を育てるのだと言っていた。けれどその子供はどこからも発生しないというのに。「あれまるごと残ったらおまえにやるしかねーじゃん。おまえか日佐人か瑠衣にやるしかねえだろ。誰か一人にやっとけば一緒だろ、結婚したほうが手続き楽だろ」
「……いろんなこと考えて偉いですね」
 としか、言いようがなかった。堤おまえのなかで俺はなんなんだ、ガキか、そう言われて、
「いや諏訪さんは世界一かっこいいです」
 惰性で答えた。諏訪は沈黙し、長いあいだ沈黙をしたあと、
「……馬鹿」と答えた。

「なんであんなこと言っちまったかなあ」
「するって言ったのアンタですよ」
「やめようぜー」
「今更やめらんないですよ。衣装までつけといてなに言ってんです。オレは今すぐ祝詞を聞きたいんですよ」
「聞いてこい聞いてこい。俺はここで寝てる」
「結婚式はふたりでするもんだろうが」
「あぁ? やんのかコラ」
「喧嘩してごまかそうったってダメですよ」
「吐き気がするんだけど」
「酒飲んだら治ります。酒好きでしょ」
「この場合の酒ってあれだろ、正月に飲む奴だろ、好きじゃねーよマズイ」
「終わったらいくらでもビール飲んでいいですから」
「うー」
「なにをむずがってんだよ。ガキか。根性見せろよ」
「堤」
「はい」
「とりあえずちゅーしてくれ」
 した。



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