セックスをするために必要なものをひとつひとつ並べていってこんなめんどくせえことをするくらいならもうやめていいんじゃないかと言っている男がいるのだけれどそいつをどうしてやるべきだろう。男同士のセックスはたしかに面倒くさいものではあったけど女とのセックスだってそれなりに手順が必要だしそもそもアンタとやるときは前戯とかたいして必要なくて突っ込む手順だけ整えてあと突っ込めばいいんだしあんたも早く入れろってうるせえし、だからべつに面倒の量としてはたいした違いはないんじゃないですかね。
「おまえ童貞いつ切ったの?」
 そう聞かれて、高2です、と答えた。凡庸だ。高2ではじめて恋人と呼べる存在ができて、うまく立ち回ってセックスが出来るところまでこぎつけた。図書委員の女子で、大地のことを、だいちゃん、と呼ぶようになった。二年付き合った。その間諏訪は隣にいたのに、そんなことも知らなかったのだろうか。女子と別れたのが諏訪がきっかけだったということも。
 歳末である。テレビはレコード大賞を映している。実際のところ今年なにが流行ったかなんて興味もなにもありはしないのだから適当につけているだけの画面でそれ以上でもそれ以下でもない。楽しくも楽しくなくもない。ただ諏訪がこたつに足を突っ込んでぼんやりと画面を眺めては衣装だとか歌をとちったとかどうでもいいことに言及するのを見るのは楽しかった。楽しかったのだった。
 たしかに大地は楽しかったのだった。
 好きな人ができたっぽいから別れてほしい、と大地が言ったとき、ていうかだいちゃんはずっと好きな人はいたよね、と彼女はあっけらかんと言った。大地の好きな本を趣味でもないのに読んでくれるような女子だった。大地は彼女の好きな本を数冊しか読まなかった。意味がわからない恋愛小説ばかりを読んでいる少女だった。もっときちんと読んでおくべきだったかもしれないと思う。
 大地に言いつけて机の上にそれらを並べさせている諏訪が、なにを考えているのか大地にはわからない。諏訪はローションのボトルを手にとってつくづくと眺めている。たいしてそれを触ったこともないくせに(だって大地がいつも諏訪のそこに触るのだから)、いやたいして触ったこともないからこそか、ぼんやりとした目つきでそれをじっと眺めたりしている。
「濡れねー穴に入れるの楽しい?」
「オレが童貞切った女もあんまり濡れませんでしたよ」
「どうしたのそれで」
「薬局でワセリン買ってきて、塗ってみたりしました」
「へえ。うまくいった?」
「なんとかなりました。そんなもんなんですよ」
 諏訪は顔をしかめて、「ガキに言い聞かせるみたいな言い方やめろ」と言った。
 なにを気にしているんだか知らない。女が恋愛の歌を歌うときばかり肩をびくつかせて画面をみないふりをしている諏訪がなにを考えているのかなんて知らない。知る必要もない。知る必要はないんだと思った。だからもうどうしようもないなと思って、オレのほうがずっとどうしようもないなと思って、こたつの向こうにまわりこんでキスをした。キスをする口実としてローションのボトルを取り上げた。これを俺が手にしている以上ほかにすることなんざないでしょう諏訪さん、オレの女はいまあんたひとりでオレは結局最初からアンタひとりを好きだったんだってオレの最初の女は言ったし、それ以上の理由は必要ないでしょう。
 テレビ消せよと諏訪さんは言った。なんだかはじらっている処女を相手にしているみたいで俺はぞくぞくした。消しません、と答えた。殴られた。軽い一発でしかなかったのでそれは前戯だった。男同士なので前戯はそんな感じ。それ以上のなにも必要ではなくてオレはもういちどキスをしてキスを繰り返して、陳腐な女の歌を聞きながらあんたの体をひきずりだしてケツをこっちにくださいと行ってローションを手のひらでいちいち温めてあの頃はこんなものも買えなかったなあなんて思っていて、アンタのケツがびくびくしているのがサイコーにエロいと思っている。ハッピーエンドできてよかったですね。
 ハイ、よかったです。


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