わかれたい。わかれたい? わかれたい。わかれよう、わかれる。もう終わりにする。終わりにしよう。はは。何言ってるんですか。正気ですか。だってなにが終わるっていうんですか。俺たちずっと同じ隊ですよ。セックスをやめるんだよ。ガキにいうみたいな言い方やめてくださいよ。セックスをやめるし俺はこの部屋にこない、すくなくともひとりでは来ない。おまえの飯を食わない。ふたりで住んでるみたいにするのをやめる。ずるずる泊まるのもやめる、いっしょにいるのをやめる、ふたりきりになるのをやめる、ふたりきりになるときは換装中だけだ、そういう生活をはじめるんだ、別れる。別れよう。
おねがいごとをするみたいな言い方をするのやめてくださいよ。懇願するみたいに言うのやめてください。そんな言い方しなくたってわかります。大丈夫ですよ、別れられます。そうですね、そういうふうにしましょう。諏訪さんがそうしたいっていうなら、そうしましょう。
でもアンタそれでいいんですか本当に?
……アンタ馬鹿だな、ひとりで悪役ですよ、これじゃ。別れようって言いだしといて相手を殴ってしかも顔を殴るとか本当に馬鹿なんじゃないですか。ばればれじゃないですか。おサノはともかくこれ見る日佐人の気持ちあんたちゃんと考えました?
黙れよ。
黙りませんよ。だってオレ喋る権利あるじゃないですか。オレ一方的に別れようって言われてそのうえ殴られて一方的に被害者じゃないですか。殴り返してほしいですか。しませんけど。オレはアンタが好きでしたよ。終わりにしなきゃいけないってあんたが言うから過去形で言いますけどオレはあんたが好きでした。だからオレはアンタを殴り返しません。理由がない。理由がないです。諏訪さん。理由がないですよ。諏訪さん。
ねえ、アンタなんでこんなときまでカッコイイんだろう。
黙れよ。黙れ。何言ってんだかわかんねーよ。全然これっぽっちもわかんねーんだ。そんなはずじゃなかったはずだ。最初は違ったはずだ。俺たちはよく似てると思ってた。同類だと思ってた。だから最初から間違えた。最初からまちがえてずるずる間違った方向に流れて来た。痛くねえのか大地。
痛いです。
痛いなら痛そうな顔してろ。
アンタのほうが殴られた顔してる。
なあ、どうせ俺のことなんてべつに好きじゃないんだろう。
なんで泣くんですか。しょうがない人だな。なんで泣くんです。オレはアンタにもうなにもしてやれないじゃないですか。抱きしめてなりゆきにまかせるみたいにセックスしてそういうことだったんでしょってごまかしてなかったことにしてアンタが傷ついたことやオレがアンタを傷つけたことをもうなかったことにはできないじゃないですか。だからもうアンタは俺の前で泣いちゃいけないんですよ。畜生。畜生。畜生。なんだってんだ。諏訪さんオレずっとアンタのこと嫌いでしたよあんたはちょっと、恰好が良すぎる。
それならもう二度と俺を褒めるのはやめろ。俺を見るのも俺のことを考えるのもやめろ。おまえのなかに生きている間違った俺を今すぐ消し去れ。もう二度と俺を抱かないのならおまえはそうする義務がある。知った事か。知った事か! そんなのオレの勝手ですよ別れたいって言ったのは、オレじゃない!
なあなんか言う事あるだろおまえなんか言うことあるだろ俺が別れたいって言ったときに言う事ほんとは別にあるだろ。つごうのいい言葉を言わせてそれで満足なんですか。アンタの都合のいいオレがそんなに欲しいですか。アンタの都合のいいオレが手に入ったら嬉しいですか? 他人と一緒にいる意味あるんですか。アンタはオレをいったいどうしたかったんですか。オレはずっとアンタが好きだったのに。
嫌いだったのに。
好きだったのに。
嫌いだった。
泣くな。泣いていません。泣くな。泣いていません。泣くな。泣いてませんったら。どうしてこんなふうになっちまったんだろう。オレたち永遠にこうなんじゃないですか。アンタはまぼろしのオレを探している。どこにもないオレを。アンタのことを愛することのないオレを。そうしてそいつが存在しないからってむずがってオレに死ねという。ここに存在するオレの感情をなかったことにしろと言う。だからなんなんですか。アンタにとってオレはそんなに都合が悪いですか。いっしょにいなかったらよかったですか。いっしょにいなかったらよかったですかね?
そうだな。
そうだった。
最初から間違えた。
好きだよ。
好きだった。
ビール飲みますか。
飲む。
肉はないです。
いつもそれな。買っとけよ。
諏訪さんオレたち趣味が違いすぎるのに歩み寄ることがなさすぎますよね。これでいいんですかね。長期的にこれでいいと思います? どうせオレアンタのパンツ捨てられないんでしょう? 馬鹿みたいだ。二発も食らった。階段から落ちたことでいいですかね。それとも食器棚が倒れて来たとかそういうほうがいいですかねえ。諏訪さん肉食いたいなら今から買いに行きましょうよ。野菜もあんまないんですよ。アンタほっとくと肉しか食わねえから色々考えないといけなくて面倒くさい。オレの好きなかんじの飯はジジイくさいってうるせえから料理のレパートリー増やさなきゃいけない。オレの趣味でもない料理をアンタのために覚えてる。けなげですねえ。それもこれもアンタがクソカッコイイせいだ。死ねばいいのに。
大地。
はい。
大地、おまえ、馬鹿だな。
いま気付いたんですか?
買い物に行こうぜ。
行きましょう。
いい肉を買おう。
諏訪さんのおごりで。
うん。
泣くのはもうやめましょう。みっともない。
止まらねーんだけど。大地。
あのねえ。
うん。
これって、そういうことですか。
うん。
オレさっき言いましたよね?
うん。
ああもう。ビールあけたぶん飲んじゃってください。馬鹿はアンタだ。まったくもう。流されてセックスして全部なかったことにしてアンタが傷ついたこともオレが傷つけたこともアンタがカッコイイからオレはいつ死んでもいいってことも全部なかったこにして流されて流されて流されて流されて流されていくばっかりのオレたちの人生はアンタのせいじゃないか、全部アンタのせいじゃないか、全部アンタのせいでアンタがはじめてアンタが続けて繰り返して別れようなんて繰り返してそれでオレばっかり振り回されてへらへら笑い続けてアンタがいなくなったらひとりで泣いてアンタが放り出していったアンタのパンツ捨てるかどうか決めるのさえオレでアンタはいつも勝手にふるまってカッコよくてカッコよくてずるいじゃないか、全部自分が悪いみたいなふりをしてずるいじゃないか、悪役面をしてずるいじゃないか、最後の最後までオレはアンタを好きになりますよ、永遠にそうですよ、もうこれまでずっとそうだったんだからアンタが死ぬまでずっとそうですよそのオレをあんたはけっして殺せねーんだからざまあみろだよマジでアンタの好きなようにばっかりさせられると思うなよアンタがどうしたってオレはアンタの意向に沿いますがそれがオレの心の中のアンタを殺せることになると思ったら大間違いだからな諏訪さんオレね、オレあんたが、好きですよ畜生!
いいから早く突っ込めよ。