秀次は水風船が嫌いだ。ばしゃばしゃやってて突然割れてビヤーと泣いたことがある。ビヤーと泣いたときは姉がそばにいたので秀次は濡れた浴衣でも大丈夫だった。もう大丈夫ではないので秀次は水風船が嫌いで水風船を見ると気分が悪くなる。自分はもう守られていないのだと思う。
だから祭り日を避けて通ることにしていることを米屋陽介は知っているが出水公平は知らない。出水公平はばしゃばしゃと水風船を叩きながら道を歩いてきた。祭りの音が遠く聞こえた。ばしゃばしゃと叩いているそれはまるで出水がいつも扱うトリオンキューブの乱雑さによく似ていた。
秀次は遠く出水を見ていた。突然水風船はばしゃりと割れた。出水はびっくりしたような顔をしてそれからけたけたと笑いだした。ひとりきりで道端にいるのにけたけたと笑い出して心底愉快そうだった。だから秀次は出水とよんだ。
「なんだ見てた今の?だっせえ」
「濡れたな」
「濡れたよぉ!」
ハンカチを取り出して膝を拭いてやると出水は、「なんだおねえちゃんみてえ」と言った。その言葉にはなんの重みもなく、だから秀次は、傷つかなかった。


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