アルコール中毒患者のようだと思った。窓を見るたび、どこまでならどうとどくかを反射的に考えているのだった。いや違う、考えてすらいないのだった。最初は窓を見ないようにしていた。いまはもう諦めている。透は窓という窓を見るたびに、射線が通るとか通らないとか、どこまでなら通るとか、ここは使えるとか、考えながら建物のなかを歩いている。
 性行為を終えたあとの万能感のなかで、高い窓から外を眺めるのは気分が良かった。
 そして性行為を終えたあとの万能感が透のそれを加速させていることに、透はなにかしら淫靡な情動を覚えて、そのことに満足していた。
「……おはよう」
 ボーダー本部付き男子寮のなかを、ぐるぐると歩き回っていたところだった。それはまるきり意味のない行為であり、いわばスキップをしていたも同然の行為だったために、透はひどく狼狽した。三輪はあまり表情を浮かべないまま挨拶をし、それから「どうした?」と首を傾げた。
 そういうふうにしていると、ふつうの少年のように見える、そう透は思った。
 まだ始業時刻には早いのに、きちんと制服のシャツを着ていた。そういうところも透にとっては好感が持てるはずだった。はずだったのにむしろそういうところ、透自身だって制服のシャツを今まさにきっちりと着ているというのに、それ自体が透が、三輪秀次に少し苦手意識を持つ理由だった。なんとなく、叩くと壊れてしまうもののように思えるのだった。そうだ、いわば射線が通り過ぎているように思えるのだった。
 そこまで考えて、透は我知らず渋面になった。なりながら、半ば慌てて「なんでもないよ、おはよう、三輪」と答えた。
「射線のことを考えていた」
「……真面目だな、おまえは」
 妙にくっきりとした、三輪のいつもの喋り方。三輪は清冽に過ぎると透は思う。三輪といると自分がひどく矮小で、そしてみだらな存在のように思えるからだろう、たぶん、透は三輪が苦手だったが、それは愛着と紙一重の感情のような気がしていた。射線が通り過ぎている。
 通り過ぎている、だなんて、当真勇のような考え方ではないか。射線が通りすぎていてつまらないから嫌いだ、なんて。……透は三輪をできるだけまっすぐに見返し、「ここなら本部を襲撃する近界民をアイビスで撃てる位置だ」と言った。ほかのことはなにも考えていないような口調で、そう言った。三輪はもとよりほかのことなど何も考えたことはないような目をして透を見ている。
 見透かされているような気がした。


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