意味のないことはやらない男だとまでは言わないが、やりたくないことは一切やらない男ではあった。だから透をつれて歩き出した当真が放棄地帯にふみこんで長い散歩を始めたことはたぶん当真のなかではなにかしらの目的のある行為だった。そう思っていた。
 透はといえば、手を引いて歩いている当真の手のほうが自分の手より大きいことに気をとられすぎていて、そもそも手を引かれている意味もはかりかねていて、そこがどこであるか当真がどこへ向かおうとしているのか、どうでもいいとすら感じていた。そうだ、手を引かれて歩いていた。ひとっこひとりいない放棄地帯で、ばらばらとくずれたがれきの破片を乗り越えて、かれらはだらだらと、昼の散歩をしていた。
 ひどくのどかな昼だった。透はふと目をあげる。目をあげないようにしようと思っていたのに、目をあげてしまう。目を上げてしまった途端に場所を探し始めるから病気だった。うまい射撃ポイントを勝手にサーチしてしまう目を透は止めることができない。
 当真が振り返り、「病人」と言って笑った。
「依存性」
「……当真さんのくせに、ややこしい言葉を知ってるじゃないか」
「おまえ俺を馬鹿だとでも思ってんの? 思いたいの? 思わせてやったほうがいいわけ?」
「ほんとうに馬鹿だよ、あんたは」
 足が止まっていた。手を繋いだまま、距離が近かった。そこより近づかないまま、当真と透は距離を保っていた。ひどく近いから、と透は思う。射線が通るどころの話ではない、ひどく、近いから――
「……あんたは馬鹿だよ」
 拳銃を買った。
 トリガーではなくリアルな金属製の拳銃を買った。手に入れることができた。手に入れてしまった。殺さなくてはならないと思った。そのことを当真は知っていたのだろうか。いま透がそれを持っていることを、知っていたのだろうか。あんたは馬鹿だった。知っていたのだとしたらあんたは馬鹿だった。
 ゆっくりと手を話した。すべてがゆっくりと行われていた。つきつけられたものを当真は笑って見ていた。ずっと当真は笑って見ていた。拳銃は重かった。両手で握った手が震えていた。殺さなくてはならないと思った。もっとリアルな形で殺さなくてはならないと思った。当真は知らないままで死ななくてはならないと思った。
 透の家も放棄地帯となった。民間人は立ち入り禁止の区域に指定された透の家。かつて透が信じていたもの、あたりまえだと思っていたもの。ばらばらになってしまった全て。透はすでにばらばらになったあとの存在だった。だから。
 だから当真は死ななくてはならないのだ。
 ばらばらになる前に。
「……あんたは馬鹿で、……完璧だよ」
 それゆえに。
 指が震えた。当真が手を伸ばした。透の指をつかんだ。透の指をつかんで、透の手の上から拳銃を握った。大きな手だった。ぼたりと大粒のものが落ちてゆく先にあるのは、大きな手だった。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -