「帰るんだろう」
 揺すり起こすと、んん、と不機嫌そうに声を立て、それでも当真は「帰る」と唸るように言った。早朝四時に収集があり冬島が寮に呼び出しに来るから、それまでに帰って準備をしておかないといけないのだと言っていた。エンドロールが終わったあとの画面は透がブラックアウトさせたままで、当真は半分以上、眠っていた。
 もちろんそれは意地悪として行われたことだったのだった。美しいばかりで難解なフランス映画を観ながらとなりに寝入った当真を置くことは、蜜のようにやすらかなことだった。エンドロールのさなかに身を起こしてくちづけをした。そうしてから当真さん、と呼んだ。夢の時間は終わりだ。当真さん、起きろ。
「ひとりで帰れる」そう言った当真に、透は仏頂面で「当たり前だ」と言い返した。透の家から寮まで五分と離れていないのだ。まったくもって当たり前だ、そんなことを理由にして言い訳をしようなんて思っていなかった。言わせるな、という話だった。
 当真は伸びをして、「回り道しようぜ」と言った。
 少し歩くとコンビニエンス・ストアがきらきらとまばゆく存在していた。そこの入口で当真はどこか楽しげに「待ってろ」と言い、すぐに出てきた。
「やる」
「え?」
「じゃあな。もう帰れ。デートおわりー」
 ひらひらと手をふる当真が、夜の道、遊歩道になっている木々に隠れて遠ざかってゆく。コンビニの明かりを背景に、透は立ち尽くしていた。
 袋なしで手渡されたチョコレート菓子の箱に、ほんの一瞬だけ当真の手のぬくもりが残っていて、すぐに消えた。……チョコレート菓子をヒロインに渡すシーンは、ほとんどクライマックスに近い、終盤のシーンだ。
「……なんだ、起きてたのかよ」


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