目が覚めたらレイジはまだ眠っていた。なんだか地下室に閉じ込められたみたいな気分になって陽太郎は、雷神丸、雷神丸はどこだとおもったのだけれど雷神丸は病気になってしまっていま病院にいるのだった。陽太郎がぐずぐずむずがりながらレイジにびったりとはりついて一日を過ごしたのはそのせいだった。雷神丸は死ぬのか、と百回くらい聞いた。死なない、とそのたびにレイジは答えた。雷神丸は死なない、雷神丸は強いから死なないんだ、とレイジはそのたびに答えた。
 目の前に転がったレイジがいて、胸が上下に動いているから呼吸をしていて生きていてちゃんと生きているってことは陽太郎にはちゃんとわかっているのにでも部屋がまっくらでまるで見知らぬ地下室に閉じ込められたみたいな気分で陽太郎は、レイジ、レイジと小さな声で呼んだ。レイジ、レイジ。起きて欲しいと思いながら、でも陽太郎はどこかで、起きて欲しくないとも思っている自分に気づいていた。起きてほしい起きて欲しくない起きて欲しい起きて欲しくない、どっちだろう、両方、両方だった。陽太郎はさびしかった。だからレイジに起きて、レイジは死ぬのか、と尋ねたかった。そうして、レイジに、死なない、と答えて欲しかった。でも陽太郎は同じくらい、目がさめたままレイジにぴったりとくっついていることに、なんだろう、なんだろうな、たのしい、たのしいじゃない、うれしい、うれしいでもない、どきどき、どきどきが一番近かった、どきどきしていた。
 陽太郎はだから大きな声を張り上げることはなく、布団にもういちど潜りこみ直した。レイジの横にぴったりとくっついて、レイジの体にさわって、レイジ、と小さな声で呼んだ。レイジはすうすうと眠っていた。子供みたいに眠っていた。大人も子供も眠るときは一緒だった。眠るときは一緒の顔をして眠るから陽太郎はそのことにどきどきしたのかもしれなかった。レイジがまるで自分と同じような子供に思えて陽太郎はどきどきしたのかもしれなかった。レイジは眠っていて眠り続けている。陽太郎はレイジとおなじ一枚の布団のなかにくるまってレイジの体をそうっと撫でて、大きな体だなと思った。でもおれもそのうちこれくらい大きくなるから、いいんだ。大丈夫だ。そうして陽太郎は、おおきくなったらレイジとすることを考えた。遠い国に出かけて行って帰ってくる話、これは昔から何度も何度も考えた。一緒に戦う話、これも何度も何度も考えた。レイジに料理を作ってやってレイジのいましていることはなんでもしてやってレイジにおまえはえらいなと言われる話、これも何度も考えた。それから。
 レイジとそれからどんなことがしたいだろう。陽太郎は考える。どきどきがあって、でもそのどきどきがなんなのかわからない。でもレイジと、どきどきすることがしたいと思った。布団の中で陽太郎だけ目を覚ましているみたいな、どきどきすることを陽太郎は、レイジとやりたいと思った。レイジがそのとき、陽太郎にどきどきするだろうか。するだろうか! それはとてもすてきな考えだった。おれはレイジにどきどきされたい。おれがレイジとこうやってくっついていてどきどきするみたいに、レイジにもどきどきされる話、その話を陽太郎は、もっと考えないといけないと思った。
 陽太郎は眠くないので起きている。雷神丸もいま起きているだろうか。雷神丸が帰ってきたら、雷神丸に、どきどきについて聞いてもらわなくてはならない。陽太郎がどきどきしたこと。レイジが眠っていたこと。レイジがねむっていて陽太郎は起きていてレイジが子供みたいな顔をしてねむっていてレイジが、そうだ、陽太郎はそのとき、レイジをかわいいと思った、レイジは、かわいかった、かわいくてどきどきしたから、そういうことを陽太郎は雷神丸に聞いてもらわなくてはらなない、そうして雷神丸に、それってどういうことなのか教えてもらわなくてはならない、あいつは頭がいいから、なんでも知ってるから、陽太郎のどきどきをちゃんと、わかってくれると思った。
 レイジは眠っている。陽太郎は眠くないので起きている。雷神丸、元気になれよ、と陽太郎は思う。ここは地下室みたいだ。レイジとふたりっきりでえいえんにここにいるしかなくなっちゃったみたいだ。それはこわいことなんだけどおれはどきどきもしているんだ。雷神丸、おまえももしかしたらそんなところにいるのかな、地下室みたいなところでさびしくしているのかな、いっしょにいられなくてごめんな、はやく帰っておいで。
 陽太郎は大きく息を吸い込む。布団のなかはレイジの匂いで満ちている。閉じ込められているみたいな気持ちはどきどきでどきどきはどこかしら幸福に似ていてだから陽太郎はもうここが見知らぬ地下室みたいでもレイジの匂いがしていればそれだけでもう十分だと思いながらレイジ、レイジ、レイジ、レイジ、いつまでも小さな声で彼のなまえを呼んでいる。



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