「なにやってんの?」
 声が聞こえた。公平は凍りついた。太刀川はいつもどおりの太平天楽な声で、「よう、嵐山隊の、」まで言って、「えーと」
「出水、誰だっけ」
「……さとり」
「さとりね。さとりと、そっちは?」
「は!?」
 背中を汗が滑り落ちていく感覚がさっきまでの熱を払拭してすっかり冷たかった。冷静さに動揺を数グラム混ぜた声で、「嵐山隊オールラウンダー、時枝充です」という声が聞こえた。時枝。時枝もいんの? 背中の後ろで何が起こっているのか分からず公平はただ、木虎、木虎はやめろ、木虎だけはやめろ、木虎だけはやばい、と思っていた。嵐山さんはまあいい木虎はやばい中学生に見せるのはさすがに、なあ、さすがに、ていうか。
「っあ、バカこのっ、……ち、かわ、さん」
「あのさあ、もうちょっとなんだけど」
「もうちょっとかもしれませんが、オレたちもう見つけてしまいましたので」
「あーオレ見ててもいいよ、とっきー行ってなよ見るのしんどいでしょ」
 いいのかよ。よくねーよ。よくねーよ全然なにひとつよくねーだろよくねーよと公平は思いながらしかし、膝に乗せられる対面座位でしたから突き上げられてあ、ンぁ、と必死で声を殺すことしかできないのでそしてそこは公園だった、放棄地帯の。
 時枝が、はあ、と溜息をついた。
「……賢がいいなら、いいけどね。でも賢にお説教できる?」
「できるできる、大丈夫」
「じゃあオレは、さすがに、見てられないので、失礼します。だめですよ太刀川さん、こんなこと」
「なんで?」
「……じゃあね賢」
「オッケー」
 オッケー、じゃねえよ。
「たち、たちかわさっ、も、やめ、やめましょ、ね、さと、さとり、てか、どっか、いっ……」
「やだよ面白い。他人のセックス見るのははじめてだなー」
「さとりお前慣れてんな」
「アオカンするならもっと影になるとこでやんなきゃダメだよ、放棄地帯だからってさ」
 ぐりぐりと中を押し上げられ、「あー、これ、時間かかるわ、短縮すっか」と太刀川はのんきに、それはもうのんきな声で言ってぐいと、公平の体を引き起こした。
「え、っひぁっ、!」
 ハメたまま、ぐるっと体をひっくり返されて中がぐじゅっと抉れて喉がひきつった。そうして目の前に、にやにやと笑いながら立っている佐鳥、佐鳥がいて、目を見開いて涙をうかべた公平の目の、すぐ前に、しゃがみこんだ。いーずみ、せんぱい、と、ことさらに嬉しそうに言う。
「かっわいー」
「かわいいだろ」
「ひっあっああああったちかわさ、たちかわさんっやだっやっこわ、こわいきゅうに、や、やぁあっ」
「はやく終わらせないとさとりがたのしーだけじゃん」
「やあっやだああぁぁあっさとり、さと、みん、見んな、やめ、あ、あぁああああああっ」
 バックからがつがつと勢いをつけて掘られてその上太刀川の指が公平のものに絡んでいる。前後を同時に犯されて、目の前に佐鳥がいるというのに公平は身も世もなく引きつった喘ぎ声をだらだらと漏らして、だめ、いや、こわい、やだ、さとり、さとりいや、いや、と、
「佐鳥じゃないだろ、おまえを、食ってんのは」
「ちかわ、さ」
「ちゃんと言え」
「できなっ、でき、ない、です」
「たちかわさん」
「た、ち、っわ、さ」
「たちかわさん」
「たち、かわ、さぁ、っっあっ、さんっ」
「よくできました」
「たちかわさったちかわさんっやだやだやだッイッ、おれ、さとり、やだ、見る、な」
「……見てるよぉ、先輩」
 佐鳥はにっこりと笑って言った。ぞくぞくぞくっと背中を駆け上がっていった感覚があった。太刀川が背中のうしろでくすりと笑い、ぐいと公平の体を引き起こした。足をつかんで股を開かせる。
「や! やめ」
「足自分で持って、佐鳥に見せてやれよ」
「っ、っく、あ、あぁっ」
「うっわ、すごいね」
「触るなよ」
「はーい」
「出水、出ちゃう?」
「なに、言わせ……」
「へえ、まだそんな余裕あんの」
「や、やだやだあやだっ、イッちゃ、イっちゃうおれっおれ、や、やだ、や、や、みる、な、ぁ、……!」
 びゅるっ、びくっびくっと吐き出されたものが、のぞきこんでいた佐鳥の前髪にほんのすこしばかりかかった瞬間をスローモーションのように見てものすごく死にたい公平の、体のなかでしかしまだ太刀川のものはかたく公平を支配している。佐鳥。顔をあげた佐鳥と目があった瞬間公平はぼろっと泣いた。足を掴む指が震えてずるりと滑り落ちてべたりと地面に這いつくばって顔を伏せた公平の、ぼうぼうに生い茂った草のなかに顔をへばりつかせた公平のうしろをお構いなしに太刀川のものが食い散らかしている。
「ひぅ、ううぅうっあ、あぁっ、も、もう、おれ、おれっ、たちかわ、さ、あ、あああっ、あ、あ、あ」
「もう、ちょっと、がんばってな」
「がんばれがんばれー」
「だまっ……」
「出水先輩すげーね、こんなんなってもまだオレのこと気にする余裕あんの」
「褒められてるぞ」
「あ、あぁぁっあぁんったちかわさんっおれっ、おれ、おれ、も、あ、あぁぁあっ」
「ん、……いずみ、」
「あ、あぁっ……あ、あ、あ」
 拍手が起こった。顔をあげた公平はぎっと佐鳥を睨みつける。体ががくがくと震えて涙がこぼれていてもそれでも睨みつけてしかし佐鳥は、「それすげー煽ってるみたいに見えるんだけど」と、へらへら笑いながら言った。
「出水先輩のエッチー」
「好きになっちゃうなよさとり、おまえを殺すくらい簡単だからな」
「太刀川さんはエースだから人を一人殺したくらいもみ消してもらえるし? ありそー。でも大丈夫ですよ、佐鳥も女の子なので」
「は?」
「佐鳥もー。出水先輩と同じ、女の子なのでー」
 へらへらと笑いながら佐鳥はそう言い、公平の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。「されるほう、って言ったほうがいい? いいもの見たなー楽しかったなー、これに免じてとっきーにはうまく言っときます。あとさっきも言ったけど、いくらなんでもアオカンするときは人目につかないようにしなきゃだめだよ。オレはともかくとっきーに見つかるとか、完全にアウトだよ。木虎なんかだったらもっとアウトでしょ、本部長に上げられたら大目玉じゃん、わかるでしょそれくらい、太刀川さん」
「おれのことを馬鹿だと思ってるだろ」
「馬鹿じゃんね。出水先輩はだって馬鹿じゃないんだから、隊長サンが命令したんでしょ、ここでやれ、って」
「そういうことになるかなぁ。出水だってしたかったもんなぁ?」
「……あんたが。言うことに。逆らったことが、ありましたかね。おれは」
「なくはないだろ」
「ゼロではないですけど」
 べらべらと、佐鳥がなにかをしゃべっているということはわかるが公平はもうなにかを考えることを放棄したかった。見られた。佐鳥に。よりによって佐鳥に、なにもかもを面白がっているみたいな顔をしてへらへらしていて妙な技ばかり開発してまとわりついてくるひとつ歳下の広報部隊員、……待てよ。
「……佐鳥」
「はーい」
「おまえ、なんで、そんな、なんか、なんつーの、なんか、……おちつい、てん、の」
「ふふふ。どうしてでしょう」
 佐鳥は笑った。ひとつしたの。十六歳の。なんで。女の子の、ほう?
「正解は、佐鳥の彼氏はこんなもんじゃないから、です」
 へらへらと佐鳥は言い、「へえ」と、あいかわらずのんきなままの声で太刀川が感心したように言った。彼氏? 公平は頭がくらくらして、なにがなんだかよくわからなくなった。世界がぐらぐらしている。佐鳥賢が。女の子?
 で、アオカンに適したスポットを、講義してくれている?
 ここはどこだ。

「つうわけで赤い服を着たサンタサンのお古」
「嵐山隊か……」
 三輪秀次は複雑な顔をしてそれを手に取り、「嵐山隊か……」ともう一度言った。
「いやまあおまえも嵐山さんにいろいろ言われて、思うところはあるだろうけどさ、佐鳥はまあ、アレじゃん、関係ねーじゃん」
「他人が使ったものか……」
「そういうのいやなタイプ?」
「……どうでもいい、といえば、どうでもいい」
 三輪秀次はそのとき、「陽介とうまくセックスできるようになりたい」と言ったので、「まだしていない」とは一言も言わなかったので、だって彼らが出会ってもう四年も経過していてまさかと思っていたので(しかし実のところ公平が太刀川に思いを伝えることができたのは四年どころの話ではなかったという事実もあるのだが)、まさかしていないとは思わなくてただ「うまくいかない」という話だと思っていたのだった。三輪は口数の少ない男だった。裏目に出た。
 というのはまああとになってからの話で彼らは「赤い服を着たサンタサン」の貸してくれたものを目の前にして複雑な表情を浮かべてそれをためつすがめつしている。
「……細いのから。入れていけば、いい、って、話なんだけど」
「一番細いのというとこれだな」
「これはさすがに入るだろっていうか細すぎじゃね? マドラーかよ」
「まあ、細いのから、入れればいいんじゃないか、指示通りに」
 三ミリほどの細い銀の棒をつまみあげて依然として複雑な顔をしている三輪に対して、まあ、気づくべきだった、というのはあとになってからの話だ、まったく、あとから思い返せば三輪は歴然としてそれを、怖がっていたのだがそんなことにはまったく気付かなかったおろかな公平くんはそれよりえげつない色とかたちをしたぶっといものをつまんで「うひー」とかいうのに忙しかった。こんなん使うのかよ佐鳥賢。佐鳥賢が。佐鳥賢のくせに?
「……使う前に、確認したいんだが。出水」
「え、あ。なに」
「サンタの欲求は何だ」
「あー」
「こんなものを無償で貸してくれたわけではないんだろう、何が欲求だ」
 エンタメを提供したので、という部分は頭の中から消去したのでもうありません忘れましたもう知りません。かわりの理由はちゃんとあった。公平は肩をすくめる。
「嵐山さん」
「は?」
「嵐山さんが、あの人もあれ、こっち側らしいんだけど、そんだけでおれはふつーにショックなんだけど。なんかさあ、彼氏に金貸してて何十万とか。まえの彼氏にも貸してたんだけどそれは別れるとき取り立ててついでに記憶処理もしたらしいんだけど、そんときもそれなりに本部長とかメ対室長とかが手間かけて処理したのにまた引っ掛けてきたんだって」
「……だから何だ」
「それでそれがもう何人目かみたいな話でさぁ、彼氏のほう処理してもきりがねーから、つーか、彼氏のほうは全然もともとはクズとかじゃねーのに嵐山さんがさあ、ほらあの人迅さんに対してもああいうノリだろ、オッケーオッケーなんでも許しちゃうみたいなさあ……それで恋愛を、すると、ダメになって、グズグズんなって、クズができて、クズ育成器」
「……だから、何だ」
「嵐山さんのほうの抜本的改革が必要だから手伝えってさ」
「は」
 は、とつぶやいたあとで三輪はとても、とても、複雑な顔をして、目の前にあるものを見つめ、それから、はーーーーーーーーーと、長い溜息をついた。
「陽介に」
「うん?」
「似たようなことをされている自覚がある。嵐山、……さん、と、陽介を比べるのは腹立たしいが、聞いているとどうも」
「まああいつおまえを甘やかしすぎだよな」
「甘やかされすぎだと思う」
「……おれも太刀川さんに甘やかされすぎっていうか、愛されすぎっていうかさあ……」
 はー、と、ふたりは同時に息をついた。いいことだ。いいことだと思う。たぶん。たぶんいいことだろうと思うのに怖い話を聞いてしまった。クズ育成器。
 太刀川慶はちょっと公平を愛しすぎていて可愛がりすぎていてこわい。だってどこででもどんなときでもいつでも、出水とやりたいに決まってるじゃないかとあっけらかんと言った太刀川、自宅では公平を腕にかかえて抱き寄せて抱きしめていつだってべたべたしてくる太刀川、公平の食べ物を全部管理してどんどん料理の腕を上げていく公平、公平はただ、そこにいるだけ。
 ぜんぶしてもらって、公平はそこにいるだけで許されて。
「……気をつけような」
「だから俺は陽介のためにこれをやるんだ、俺の愛を分からせてやる」
「乗りますか」
「嵐山だろうとなんだろうと面倒を見てやる、陽介のためだ」
 毅然と三輪は言った。そうな、と小さく頷いて公平は、「おれにもやって」と、えげつないやつを振った。三輪はそれをじっと睨んで、眉をひそめて、複雑な顔をして、溜息をついて、それから、頷いた。
 惜しみなく与えられる愛に復讐を。



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