雷が落ちる、その一瞬を見計らっている。口を開く。たぶん当真には聞こえていない。聞こえていないはずだと思ったから言った。
「              」
 透の耳にも聞こえない。
 五時。もう夜は明けているはずなのに永遠に開けないままであるかのような漆黒の闇が窓にはりついていた。当真の部屋の窓のカーテンはいつも引かれている。窓は常に外を映し出している。だからいまはばたばたと叩きつける雨が闇のかたちをとってそこにある、そして雷のばりばりと光る輝き。
 いっそケミカルな光に思え、近界民よりずっと遠い世界のもののように思えるのに、それが透の生きる世界だった。そして当真の。
「ン、だよ」
「……水音ばかりが聞こえる」
「ここも?」
 当真の上に乗った透の体を急にずく、と突き上げられ、声が漏れた。透は顔をしかめた。当真が透の腕を引き寄せた。腰を掴まれる。当真に主導権を握られる。珍しかった。珍しい出来事が全身に浸透した瞬間全身が燃え上がるような感覚があった。ひきずりこまれ、る。
「っ、締めんな」
「あんたが……!」
「なんだよ」
「っ、あ」
 もう言葉を話すことが面倒臭かった。声を殺すのをやめた。どうせこの雨だ、誰もなにも聞こえてはいないだろう。昔は声を立てないでいるために猿轡まで使っていた。いつこんなふうに近づいたのだろう。いつのまに。声が聞こえるほど近くに。ぐちぐちと音を立てている水音が聞こえているのは錯覚だ。ここでなにか聞こえるはずがない。そんなはずはないのだから錯覚だ。ただ当真が透の体をすきにあつかっている、まるでもののようにあつかっている、当真がきちんと透に欲情している、そのことに透はたいそうな興奮を与えられていた。まずいと思った。全身がふるえるほどにいやらしい指先だ。
「さっきなんつった?」
「う、あ、ああっ、あ、あ」
「答えろよ」
 聞こえないふりをした。快楽に溺れたふりをした。けだもののようなあんたが好きだと言った。似たようなことを言った。あんたなしでは生きられないと言った。似たようなことを言った。そんなことを言った。教えてやらない。
 透のからだをひきずりおとして身をおこした当真が、ず、と腰をすすめる。もはやこらえようという意志はかけらも残っておらず透はああ、ああと悲鳴のような声をあげながら、その硬さを全身でうけとめた。
 当真が背中をなぞりながら、「うるせえよ」と、笑い混じりの声で、言った。


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