ハンバーガーを食べているペンギンがハンバーガーを食べたあとで腹を壊して死んでしまったという漫画を読んでハンバーガーが食べたくなった。そうして深夜零時の街にふらふらと歩き出している間にゆっくりと死にたくなった。深夜零時の街にも人間はいくらでも存在しているので街を走ってゆく車にぽんと身を踊らせてしまえばそれで簡単に死ねるのだと知っていた。そうして悠一は、死にたいのかなと自分に問いかけた。死にたいのかもしれない。最上さんは死んだからね。最上さんは死んだんだよ。それはまったく確かなことだった。
 目の前に、架空の少年が立っている。架空の少年は悠一に手を伸ばし、悠一を手招きした。深夜だというのに走り続ける車の側ではなくて道のほうにむかって手招きをしたからそいつは、悠一に、死ぬなと言っているのだった。悠一は瞬間的に沸騰するみたいに腹を立ててかるがるしく死ぬななんてうるさいうるさいと思って、でも架空の少年が半ば悠一の空想上の存在だということは知っていたから悠一は黙ってそっちに向かって歩いた。
 三門市で一番有名になる少年はその頃まだ悠一にとって架空の存在で悠一は十四歳で自分が世界で一番一人ぼっちのような気がしていた。もちろん太刀川慶や林藤匠はいてボーダーに住んでもいいと言われていた。家族を失って一緒に暮らしていた師匠を失ってそれでも生きていくのか。それでも生きていくお膳立てをされているのか。それでも生きていろと言われなくちゃならないのか。おまえなんておれの空想上の存在にすぎないのにそれでも生きていないといけないなんて言われないといけないのか。いけないのだった。いけないからいけないのだった。生きていなくてはいけないのだった。
「だってそれを最上さんは望んだから」
 悠一は少年に向かって言った。少年は微笑んで悠一を見ている。
「おれは最善の未来を最上さんに伝えたんだ、だから最上さんが死んだことは」
 涙をこぼしたいとずっと思っている。でも泣けない。だってそれは最上さんが望んだことだからだ。ハンバーガーを食べて死にたいな。ハンバーガーショップはどこにあるんだっけ。ねえおまえもハンバーガーを食べておれと一緒に死んでよ。それはたぶん世界で一番おいしいハンバーガーなんだよ。ねえ。
 おまえが三門市でいちばん有名な少年になる前におれはおまえと一緒に死ぬべきだった、きっとそう。

「ハンバーガーを食べに行こう」
『こんな時間にか?』
「今すぐじゃないと困るんだ」
『ちょっと待ってろ』
「嵐山さあ」
『なんだ、今すぐじゃないと困るんだろう、支度するから待ってろ』
「おまえってほんとうに実在するの」
『しないと困る』
「そうだな、みんな困る」
『おまえとハンバーガーを食べてやることもできない』
「待ってる」
『10分で行くから』
「焦る必要ないよ」
『あるよ』
「なんで」
『そんな気がする』
 通話が途切れてそして悠一は夜の街のなかにいる。架空の少年が実在する少年になった世界で悠一は笑っている。いま車に向かって飛び込んだら幸せだろうな、嵐山がおれを見つけて泣くビジョンはとてもきれいだな、サイドエフェクトが告げるきれいなきれいな嵐山の涙をざぶざぶ浴びながら悠一は通り過ぎてゆく車の光を浴びてただ微笑んでいる。なにもかもとてもきれいだ。死にたくなるくらいに。
 ハンバーガーを食べたあとで死ねるといいね。ほんとうに、そうだといいのに。おまえとふたりで。



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