ごめんなはがす時痛いと思うけど、と言いながら、きちんとセットされた髪に指をさしこんで乱す。嵐山の口にガムテープを貼って、腕も後ろ手に拘束して、悠一はふわふわと笑いながらそれを見つめている。放棄地帯の、かつて公園だった場所は、雑草にすっかり覆われていて、けれど嵐山はむしろ「荒野みたいでわくわくするな」と言いながら踏み込んでいった。そこが放棄されるに至った経緯に関して心を痛めるのはもう、嵐山は十分にしつくしてしまったあとだったのだろう、楽しそうに笑うことができるし、野放図に伸びた木々や草をいとしいものを見るように見つめることもできる。良い奴だな、と悠一は思う。良い奴で、やさしくて、前向きだ。
 嵐山はきれいすぎて、きれいなものだからぐちゃぐちゃにしたいという気持ちが働きやすい。
 ここのところ広報の仕事が立て続けにあり、加えて昨日遅くまで勉強をしていたという嵐山は、時間の合間を縫って悠一と合流したあとも、終始眠そうにしていた。公園があるからベンチで少し寝るといい、と提案したのは悠一だった。そしてそれは視えていた未来だった。寝入ってしまったあとの嵐山をじっと見つめたあと、悠一はそれを行った。
 目を覚ました嵐山が、口を開こうとして、違和感に気づいて眉をひそめている。悠一はその腕をぐいと引いて、ベンチからひきずり落とした。どさりと嵐山は雑草の中にうもれ、腕を拘束された状態で、もそもそと身を起こした。そのときには嵐山の目はすでに笑っていた。笑って悠一の無体を許していた。口を封じられ腕を拘束されて荒れた公園の木の陰に、雑草に身を埋もれさせて、嵐山准が、いつもどおりの慈愛に満ちた目、あかるいだけの目を向けて、悠一を見ている。
 ぞくぞくした。
 髪を乱す。それだけの接触をしばらく続けてから、悠一はベンチの上で片膝を立てて、自分のものをとりだした。そこでぺたんとへたりこんでいる嵐山をみつめながら、自分のものを興奮のままに勃起させた。嵐山の表情が徐々に変わった。どこか寂しそうな表情を浮かべて、嵐山は身を起こし、悠一のものに顔を近づけた。手も口も封じられている。嵐山は悠一のものに頬をすりつけた。
「……う、わ」
 悠一が呟くと、きょとんと嵐山は悠一を見上げた。なんていうんだ、こういうの、頬コキ、よくない、良い、良いんだけど嵐山が。嵐山准が。すりすりと頬を悠一のものにすりつけて、不満そうな顔をして、うまくいかないというようすで。
「嵐山」
 なんだ、というような目。
「……それ、やめなさい」
 嵐山は小さく首を振った。腕を持ち上げてみせる。ほかに方法がないじゃないかと言いたいらしい。それでいて悠一が拘束をしたということ自体にはなんの批判意識も持っていないようなのだから困ったものだった。まったく嵐山准には困らされる。そうやってごくささやかに頬を使って嵐山がやってくれたことだけでもう充分、もう十分だった。
 笑いながら悠一は「やめなさいね」と言い、靴を脱いだつま先で嵐山の中心をつついた。嵐山の喉がごくりと動くのがわかった。目がさっと悠一をみつめる。ぐりぐりとつま先でジーンズの上から刺激してやると、嵐山は上体を反らせてそのまま後ろに倒れた。肩で呼吸をしている。それでもやめないで上下に指先でなぞっていると、嵐山は首を横に振り、目をぎゅっと閉じた。
 かがみこむ。鼻息が荒い。ガムテープごしにキスをした。嵐山はひどい裏切りを受けたような目で悠一を睨んだ。いつもそんな顔しないくせに、と思うと悠一は笑ってしまう。きちんとキスができないくらいでそんな顔、と思いながら、シャツのなかに手を入れて、腹をさらりと撫でてやる。びくん、と嵐山の体が揺れる。そこから上にたどってゆくと、乳首の上にニップレスが貼られていた。
「こないだやんちゃしすぎたせい」
 尋ねるというより確定事項として言うと、嵐山はさっと頬を紅潮させた。不精不精というように、こくりと頷く。
「はがしていい?」
 首を横に振る。そんなことを言ったってわかっているんだろうに、と思いながらぺり、とはがして、そのなかのものに指を触れさせた。山をぎゅっと潰すと、嵐山はぐうと喉を鳴らして身を縮めた。守られていた場所はよりいっそう敏感になるというのはもう少し前にお互い確認済みだった。わかっていたから嵐山は嫌がったのだ。強めの力をこめてぎゅっとつまみあげると、嵐山はいっそう乱れた。ぱさぱさと髪を乱して、背中を逸らして快楽を逃がそうとしている。そのまま背中を撫でて脇腹をくすぐって、感じるところをひとつひとつ全部なぞってやる。声を出せないせいでよりいっそう快楽に溺れているように見えた。
 嵐山の体の上に木漏れ日が落ちている。快楽に乱れる嵐山は美しいと悠一は思った。
 ジーンズを脱がせてやると、下着はすでにびっしょりと濡れていた。その上からすうっとなぞって、悠一が微笑みかけると、嵐山もまた笑った、困ったように、けれどあきらかな期待を滲ませて。
 ポケットから取り出したワセリンの小瓶からすくいあげた指を、下着のなかにつっこんで、狭いところで指を動かした。肛門にぬるぬると塗りつけてやると、きゅっと締まった。締まる反応がかわいくて、そこばかりをなぞる。襞のひとつひとつにぬりこめるように指をうごかす。嵐山が腰を揺らした。あいかわらず困ったような顔をしている。
 頬にキスをしてやった。指をおくまでぐっと入れた。びくっと腰が揺れた。なかに塗りこめるかたちで指を動かす。嵐山は眉をひそめて指の動きにこらえている、表情がときおり崩れる。いまだに下着を脱がせていない前をするっと撫でてやるとほとんど泣き出しそうな顔をして目を閉じた。ああほんとうにきれいだなと悠一はまた思う。草の匂いと木漏れ日、嵐山准によく似合う、へんな言い方だけど、嵐山は青空の下で犯されるのが似合う。
 悠一のものにコンドームをつける。それから、ずる、と下着を脱がせてやる。ぴんと勃起しているものをゆるゆると撫でてやって、コンドームをつけた。足を持ち上げて位置をあわせて、悠一のものをそこにおしあてた。嵐山と目をあわせた。嵐山は目を開いて、悠一をまっすぐに見ていた。とろんと蕩けた目が、あくまでもやさしく悠一を見つめていた。
 ぐ、と、おしいった。一度埋めたあとで、もう一度付き入れてごりっと嵐山のなかを突いたとき、嵐山の口をおおうガムテープを、びり、と引き剥がした。痛くてごめんな、と心中言いながら、けれど嵐山はそれどころではなかったようだった。爆発するように、嵐山は嬌声をあげた。
「ああう、うあ、あ、ああっ、迅!」
「うん」
「迅、迅、あ、ああっ、あっやあ、や、もっと」
「もっとほしい?」
「もっと……!」
「うん」
 ごりごりと押し付けるようになかを抉りながらまえに触れてやると、嵐山はびゅくびゅくとコンドームのなかに精液を出した。イったあとの体を押し開くようにして勢いをつけて抽挿する。
「あっ、あっ、あ、んん、ん、あ、も、キツ」
「キツくしてる」
「……性悪め」
 嵐山が苦笑する。へえ、まだそんな余裕があるのか、そう思いながら悠一は手を伸ばし、てつかずだったほうのニップレスも剥がした。両方を同時につまみ上げてやる。
「あっ、やだやだやめっ」
「すごい感じ方。これずっと貼ってなきゃだめだね嵐山。おれ以外に見せらんないね」
「迅、じん、それほんとやめ」
「やめない」
「ごめん、ごめんなさ」
「もっとダメになって」
「なってる、から」
「もっと」
「じん」
 ずぶ、ずぶとなかをくりかえし抉る。永遠にこうやっていたいけれどもう十分に限界だった。必死でこらえているだけで十分に限界でもっとやっていたいんだけどもう本当、永遠に嵐山のなかにいたいんだけどもう。からだをぐうと押し入れて、それから嵐山のからだを書き抱いてキスをした。射精感に満たされながら嵐山の唇を奪って強く啜った。
 嵐山のものがまだ勃起している。ゆっくりと扱いてやると、呆然とした表情で、けれどやっぱり嵐山は笑っているのだった。両腕を拘束されたままで、ほとんど陵辱されてるみたいなシチュエーションなのに。コンドームのなかでもう一回、嵐山のものは弾けた。自分のものを外したあとで、嵐山のものもはずしてやる。ふたつ並べて悠一は、にやりと笑う。
「嵐山二回分だから量はともかく。嵐山ってオナニーしないの?」
「……忙しかったからな」
「するの、しないの」
「しないわけがないだろう……」
「おかず何」
 ころがったまま快楽の余韻に浸っているらしい嵐山は、嵐山にしては珍しくぼそぼそとした投げやりな声で、「聞くな」と言った。
「わかりきったことを聞くな」
 悠一は目を丸くし、それから、ははっ、と声を立てて笑った。コンドームの口を縛ってジャージのポケットに入れた。ずっととっておきたいくらいだなと思いながら、まあそんな馬鹿げたことはもちろんしないのだが、嵐山の横に転がって、顔をこちらに向けさせた。ガムテープを急に剥がしたせいで赤くなっているところを撫でてやる。それから唇の端にかるいキスを落とす。もっとちゃんとキスをしたら、もう一回やりたくなるに決まっていて、しかしそろそろタイムリミットなのだ、嵐山はまた出かけていかなくてはならない。こんなに良いお天気なのに。
「ニップレス貼ってやろうか」
「自分で貼るからこれを外してくれ」
「貼ってやるよ」
「どうせおまえのやりたいようにやるんだろう、聞かないでも好きにするといいんだ」
「すねてんの?」
「……信頼してるんだよ」
 悠一は虚をつかれた。嵐山はあいかわらず、慈愛に満ちたとしか言いようのない表情で笑っている。どうしようもない男だなあと思った。どうしようもなくてやさしくてかわいい、かわいい、かわいい。
「嵐山かわいい」
 嵐山はきょとんと目を丸くし、「なにがだ?」と言った。



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