妹って欲しかったですねだから嬉しいですよ。そう言って堤大地はコンビニエンスストアで、新商品と札のついたチュッパチャップスを買った。俺にもなんか買ってよと洸太郎は言った。堤は侮蔑とそうではないのぎりぎりにある表情をうっすらと浮かべて、
「あんたオレが妹欲しかったって話ししてる時にそれですか」
 と言った。そうだよ。
「じゃあ俺は堤くんの妹になりたかったよー」
「そんな鬱陶しい妹いりません」
「俺が妹だったらそれはそれで堤くん俺のこと可愛がるじゃん」
「……それは、でしょうけど、ね、あんたみたいな妹はいりません」
「いらなくても生まれてきたもんはしょうがねえじゃん。なあ?」
 おまえ俺のことめたくそに可愛がるし俺に恋人ができたらすげえいらついて荒れるし俺の結婚式では泣くんだぜ。そう言い募ると、堤はしんから腹立たしいという足取りでさっさとレジに向かい、それから、まだしんから怒っているという手つきで、洸太郎にチュッパチャップスを一本投げつけてきた。はい。
「それでも舐めてなさい、妹は」
「おう」
「諏訪さん俺はねえ」
 あ、なんか地雷踏んだ、とそのとき気づいた。時既に遅かった。洸太郎はさっきから堤の表情や感情を丁寧に読み解いているけれどこの菩薩じみた顔立ちの男は感情表現が鈍くてほかの人間にはあまりわからないのだということを洸太郎は知っている。知っているから優越感を持ってああこいついまクソ怒ってんだなと思うことができてそんなときでもにやにや笑っていられるのは、優越感があるからだった。笑いながら洸太郎は堤の怒りを受け止めようとしてコンビニエンスストアから出て行く堤の背中を追っている。
「あのねえ」
「うん」
「オレは諏訪さんのことをめたくそに可愛がってますし諏訪さんに恋人ができたらすげえいらついて荒れますし諏訪さんの結婚式では泣きます、妹じゃなくても」
「一言一句復唱すんな」
「諏訪さんが結婚したら死のうかな」
「そんなことで?」
「そんなこと、で?」
 力を込めて言い返されて洸太郎はまだへらへらと笑ったままで背中をぽんと押してやる。そんなことでですよ。かわいそうにな堤くん、俺のおにいちゃんに生まれていればおまえは俺を諦めることができたのに、おまえが俺のおにいちゃんじゃないばっかりに、堤くんはおれの相棒でいることを全力で選ばなくてはならない。
 コンビニに入っているあいだ消していた煙草のかわりにチュッパチャップスを口の中に放り込んだ。ほとんど痛みに近いような甘さが口のなかに広がって、洸太郎はもういちど背中をぽんと押してやる。
「妹いなくてよかったろ?」
「そういう話じゃなかったですよそもそも、おサノが可愛いっていう話をですね俺は」
「俺は?」
 堤は盛大に溜息をついた。「諏訪さんはいつでもかっこいいですよ」
 ごめんなさい。



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