なめらかな形をしたものをおそるおそる触って、「その、思ったより、普通のものなんだな」と嵐山は言った。普通ってなに、と悠一はくすくす笑って言った。嵐山が膝の上にのせているそれは嵐山の20歳の誕生日のプレゼントで、二万近い額を払ってインターネット通販で買ったもので、そのサイトでもっとも褒められていたもので、アナルバイブだった。
 三門市内の中堅どころのシティホテルのダブルベッドに腰掛けている。その日はホテルに宿泊客が少ないことを事前に確認済みだった。だからなにが起こっても、嵐山の名前には傷はつかない。
「なんとなく、……なんとなくもっと、ペニスに似たものを想像していたから」
「たしかにあんま似てない」
「ありがとう」
「なに、どうしたの」
 悠一は笑った。嵐山は小さく笑い、「俺が驚かないように、こういうのを探して選んでくれたんだろう」と言った。どこまでひとが好いのやら、と悠一は思った。そういう側面がないことはないが、それよりも、……それよりももっとおれは悪い人間だよ、と悠一は言わないで、ただ、「充電済んでるぜ」とだけ、耳元で囁いた。すうっと嵐山の頬に朱が注がれてゆくのを悠一は楽しんで見つめた。は、と息をついた嵐山が、突然悠一に向き直って唇をおしあててきた。悠一はそれを受け止めて合わせてやり、自棄になったような嵐山の舌が動くさまを味わった。じゅ、と強く嵐山の舌を啜ってやると、嵐山は腰をびくりと震わせた。逃がさずずるずると引きずり込む。はあっ、は、息を切らした嵐山が唇を離すと唾液が糸を引いた。
「……もう」
「もう?」
「迅……」
 言葉が言葉をなしていない。迅、という言葉だけが宙に浮いているような声で、嵐山はくり返し、迅、迅、と呼んだ。もういちどキスをした。今度はやさしく嵐山の口の中を撫で回すだけの。そうしながら腰を引き寄せて、なだらかに腰から尻にかけてを撫で付けてやっていると、嵐山はひくひくと身を震わせた。ながいキスのあと、ほとんど息絶えているという風情で嵐山は悠一の体にすがり、深く息をついた。
「じゃあ、腰をあげて、こっちに向けて」
 屈辱的な姿勢を強要しても、嵐山は小さく緩慢に笑うだけで、悠一の示すそのとおりに従う。隊服に似た黒いスラックスからベルトを外してやる。それから服を剥く。悠一の手で引き剥がす。それをすべて悠一に身を預けてやらせているということの深い隠微を感じてぞくそくした。あらわになった尾てい骨のあたありにキスを落としてから、白色ワセリンのちいさな容器の蓋を開けた。
 ぬる、と指がそこに飲み込まれていく感覚がいつも好きでそればかりやっていたくなる。中に塗りこめる形で全体を感じるように指を動かしていると、「う、あ、」小さく悲鳴をあげた嵐山が、がく、と腕を落とした。上半身、カッターシャツに身を包んだままの嵐山が、腰を持ち上げてシーツに頭をうずめ、声を殺して呻いている。
 いつも嵐山は声を殺す。殺そうとする。できる限り伝えないようにしようとする。恥ずかしいのだと言う。自分の声がなんだか自分の声ではないようで醜いもののように思えるから嫌なのだと言って、必死でシーツに顔をうずめて手のひらで口をふさいで、声を殺そうとする。
 それを突破してやろうと思って「プレゼント」を買った、そういうことだった。ぐずぐずになって壊れて悲鳴をあげる、あげさせる、ところまで連れて行きたい。そう思いながら悠一はゆるゆると指を動かし続けた。じっくり、ゆっくりと、指を動かし続け、緩慢な甘いだけの刺激を、その、すっかりかんじやすくされている嵐山の場所に、時間をかけて与えた。肝心な場所にはほとんど触れないままで、これを機械に蹂躙させるなんて、なんだかもったいないなと思いながらも。
 指をひきあげると、嵐山は、ごく小さな声で、「あ……」と、本人も自覚していないのかもしれない、甘い声を漏らした。
 コンドームをかぶせたバイブにもワセリンをぬる。そうしてから嵐山に、「嵐山」呼んだ。
「いくよ」
 嵐山はぐったりと身を伏せたまま、ただちいさく頷いた。
「あ、……ひ、う、……あ、あああっ、あ」
 最奥まで突き入れたとたん、嵐山は体をびくびくと跳ねさせて身を引こうとした。身を引いてもベッドヘッドにぶつかるだけでバイブからは逃げられないので悠一は腰をつかんで引き戻してやりながら、嵐山に「どうした」と尋ねた。濡れた目を悠一に向けた嵐山は、ほとんど哀願するように、
「イッ……」
「イった? でも、出てないけど」
「ひ、や、やめ」
 張り詰めたまま精液を放っていないそこを撫でる。嵐山は首を振り、「イってる、から」と言った。手のひらが持ち上げられる。嵐山が手のひらで口を覆おうとする直前に悠一は、バイブのスイッチを入れた。びくん、と嵐山の体が跳ねた。
「あ、ああああああっ、や、いやだ、ああっ、あーーーーーっ!」
「……すごい声」
「やめ、やめろ迅、迅、もう、あ、ああっ、あああっ!」
「まだ出てない」
 手のひらで覆って扱いてやる。しぬ、と嵐山が、喉の奥から絞り出すような声で言った。
「死ぬ、しんじゃ、迅」
「死ねばいい」
「れじゃ、も、」
「死んでいい、殺してあげるから嵐山、もっとイって」
「ああっ、ああああっ!」
 びくびくと身を跳ねさせる嵐山のものが、悠一の手のなかで弾けた。そうなってもただ嵐山は追い詰められるだけだった。どんどん追い詰められていくだけの体をどこに逃せばいいのかわからないというように嵐山が必死でシーツを掴む。嵐山の前にまわりこんで、手をとりあげた。シーツをつかむ手をとりあげて、とりだした悠一のものを握らせる。あ、あ、あ、とちいさく声を漏らすことしかできなくなっている嵐山は、なにのことだかわからないというように、しかしその実きちんと理解して迅のものを、力を込めず握った。
「嵐山、おれもよくして」
 頭を撫でて言ってやると、嵐山は、ずるりと、ほとんど必死で身を起こし、指を動かそうとし、しかし震える指ははものの役に立たず、苛立ったように、じん、と名前を呼んでから、迅のものをがくがくとふるえる口のなかに導き入れた。喉奥までのみこんで、びくん、びくんと体をふるわせながら、必死ですすろうとしている。悠一は自分からは動かず、ただ嵐山が必死で行おうとするものを見ていた。技術などというものを発揮させる余裕はそもそも嵐山には残されておらず、ただ必死でしゃぶっているだけだった。会陰部と前立腺を集中的に刺激するシステムが組み込まれたそれが嵐山の意識を混濁させ嵐山の腰を振らせていた。揺れる腰と、嵐山ががくがくと頭を揺らしてどうにか悠一に快楽を与えようとしているその姿と、快楽を飲み干して浸りきっている肉体と、飲み込まれ切っていない嵐山の意識。全てを視界に収めてから悠一は嵐山の髪を撫で、そうして手を伸ばし、バイブのスイッチを切ってやった。
「……あ」
 ずるりと口の中から引き出してやると、たちあがったものが嵐山の鼻先で揺れた。悠一は笑い、「いいこだ」と言った。快楽に浸りきった嵐山の目が悠一のものを見つめている。「じゃあね嵐山、ほしいところをおれに見せて?」
 こくんと嵐山は頷き、ゆるゆると、ゆっくりと、感じきって疲弊した体を反転させて、腰を持ち上げて、悠一の前に晒した。命じられるまでもなくそれをして見せた。欲しいと、嵐山自身が言った。
 バイブを引き抜く。あ、あ、あ、声をもらす嵐山のそこに、こんどは悠一自身のあついものを埋めてゆく。
「ああっ、あ、あ、あ」
「きもちいい」
「おれも、おれもきもちいい、迅」
「きもちいいの、嵐山」
「きもちいいよ、きもちいい」
「いやじゃない?」
「いやじゃない」
「もういやじゃないよね?」
「いやじゃない、迅、迅すき、すきだから、はやく、もっと」
「うん」
 動いた。あっ、あ、ああっ、跳ねる声が部屋中に満ち足りて、嵐山のなかが暖かくてふわふわと締め付けていて、中がどんどん広がって悠一を受け止めていて、ただ暖かくて、そうして嵐山の声ばかりを聞きながら悠一は射精をした。抜こうとする悠一の腕を嵐山の手が掴んだ。ぐるりと体を反転させて、融けた目で嵐山が悠一を見た。
「……まだだ、迅」
「ちょっと嵐山さん」
「もっと」
「せめてゴム、ゴム変えるから」
 言葉の途中でキスをされた。奪うようなキスをされて、それから、……長い夜だった。

「迅、朝だぞ」
「むり」
「チェックアウトタイムを延長するか」
「それまでにはおきる……」
「じゃあ朝食を摂ってくるからいい子で寝ていろよ」
「うんおやすみ……」
「パンかなにか買ってこようか」
「栄養ドリンク……」
「よしよし、わかったわかった」
「ちくしょう……なんでそんなに元気なんだよ……くそー……かなわないなあ」



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