外から差し込むのは、ノスタルジーを感じさせる夕日。
それはある日の事。



「……」

「ん? どうした、イーズ?」

「……拾った」

「――はぁ!?」


イーズが猫を拾ってきた。



+++



「えー、それで連れてきちゃったのぉ?」

「仕方ねぇだろ。拾ってきちまったものは捨てられねぇし、かといってイーズ達も借家だから猫なんか飼えねぇし」


自分の膝を台に頬杖をつきながら、軽く肩を竦める。
俺の言葉に「ふーん」と相槌を打っているロードの視線の先にいるのは、今話題にしているイーズが拾ってきた猫。多分まだ子猫の類かもしれない。
だというのに捨てられていた事で、きっとイーズが自分と重ねてみちまったんだろう。それが分かったからこそ反対する事ができず、結局俺が飼い主を見つける事になった。


「ボクはどぉでもいいけどぉ。早く手を打ったほうがいいよ〜?」

「んな事言われてもなぁ」


そりゃ俺だって分かってはいるけど、だからといって早々みつかるかもんでもない。
後が怖いけど、千年公や皆の手を借りた方が効率はいい筈。……マジで後が怖いけど。


「そーいやイヴは? 部屋にもいなかったんだけど」

「千年公のおつかぁい。もう帰って来るんじゃない〜?」


やっぱ外出中か。とすると、外から部屋に向かう為にはここの前を通らないとだから、待ってるとしたらここが一番だろうな。

でも、イヴがこの猫見たらなんっつーのかね。
子供のように喜ぶか、或いはロードみたいに興味を持たないか。……多分前者っぽいな。
容姿同様に子供っぽい所あるし、或いは……。

ん? いや、待てよ。もしかしたらこの猫を利用すれば――。


++ てぃきぽんの妄想たいむ ++


「ティキー」

「んー? っと、ちょっとまって」

「……」

「いてて、引掻くなって」

「……」

「何、ヤキモチ妬いてんの? 可愛い奴、てか猫」

「……」

「ネコって可愛いよなー。尻尾とかも絡ませてきちゃってさ、俺愛されてる?」

「……」

「この耳も見てると触りたくなるっていうかさ〜」

「ティキ……」

「ん? あ、そういえば何か呼ん」

「えっと、その……ネコばかりじゃなくて、私にも構って……?」


+++


なんて頬を赤く染めて、更にネコに対抗して猫耳や尻尾までつけて言われたり……!


「――イイ……ッ!」

「何がいいのか知らないけど、指、猫に噛まれてるよぉ」


ロードに言われて初めて猫に指を噛まれた事に気が付いた。通りで痛いと思ったぜ。
よし、イヴに猫耳をつけさせる為にも、まずはこの猫から手なずけないとな。


「ただいまー」

「おかえり、イヴ〜♪」


とか思ってたら早速イヴが帰ってきた。タイミングがいいのか悪いのか。
幸いイヴの位置からでは俺の膝上が見えていないらしく。また両手に抱えきれない程の紙袋を持っている事で、よく前が見えていないようだ。
中みは……どうやら毛糸らしい。千年公の買い物って私物かよ。


「千年公、帰ってきた?」

「まだだよぉ。他の【お客様】ならいるけどねぇ」


イヴの腰に必要以上に密着しながらも、何所か含んだ笑みを俺へと向けるロード。
え、なに、もしかして見せ付けてんの? この猫投げつけんぞ。


「お客様?」

「ティッキーの膝上にいるよぉ♪ さっきからずーっとべったりしてんの」

「オイ、ロード。変な事言……」


……や、まてよ。
これはもしかして早速チャンス到来なんじゃ。
狙い通りイヴの表情も変わってるし、これはいけるんじゃね?
ロード、グッジョブ!


「膝上に、誰かいるの?」

「ああ、なんかここが気に入ったらしくてさ」


離れないんだよね。と告げれば、更に「ムッ」と顰められるイヴの顔。
あの顔は明らかに嫉妬してそうだ。いいね、いいね。もっと妬ちゃって下さいよ。


「でも人の姿は見えないような……」


思わず顔を緩ませてしまいそうな俺とは逆に、顔を顰めて寄ってくるイヴ。
まぁ確かに人じゃないし。とか思いつつ、その行動を見守ってる。と。


「……――ヒッ!?」

「へ?」


俺の膝上を覗き込んだ途端、聞こえてきた言葉に思わず耳を疑ってしまった。
あれ、今なんか悲鳴っぽい声が聞こえたような。それとも双子でも帰ってきのか?


「ね、猫……ッ!!」


俺の膝上にいる猫を見るなり、突然イヴの身体が硬直する。
……や、最早【硬直】というより【石化】か? 完全に石になってるよね、コレ。
っていうか、え? 何、その反応。まさか――。


「ミー」


イヴが持っている毛糸にでも惹かれたのか、トンッと猫が地面へと降りる。
そのトコトコとイヴの傍まで歩いていったかと思えば。


「――ぎっ! ぎいやぁあああッ!!」


それはもう、凄い勢いで。更に凄い悲鳴を上げて、イヴが後退していった。
スゲー。一瞬で部屋の隅にまで後ずさってったな。


「なっ、ななななっ! 猫ッ、なんっ、猫ォッ!?」

「キャハハッ! イヴってば相変わらず猫苦手なんだねぇ♪」


混乱してるのか最早言葉になっていないイヴに、ロードがケラケラと笑い声をあげる。
多分「なんで猫がここに」とでも言いたいんだろう。
つーか。


「ロード、お前イヴが猫苦手なの知ってたな……」

「だからさっき言ったじゃん。早く手を打ったほうがいいってさ〜」


アレはそういう意味だったのか。
てっきり千年公にお小言でも言われるのかと思ったわ。


「しっかし、凄い騒ぎようだな……そんなに苦手なのか?」


部屋ん中物凄い勢いで逃げ回ってるし。
多分俺が迫る、というか、からかってる時でさえこんなに大騒ぎはしない、筈。多分。
――あ、猫に追い詰められてる。


「なんでも、昔から猫だけはどーしても苦手なんだってぇ」

「へぇ〜、なんか意外というか。でも納得できるというか」


猫が苦手って奴事態そう多くはないろうから、意外と言えば意外なんだけど。イヴ自身が鳥属性だから、苦手と聞いてもあんまり違和感ないっていうか、納得できるというか。


「でも、イヴって生き物に好かれやすい体質でしょ〜? 向こうから寄ってくるもんだから余計に苦手みたぁい」

「うわ。最悪だな、ソレ」

「話してないで助けてぇぇええっ!!」

「おっと」


猫と睨み合っていた。もとい、追い詰められていたイヴだったけど、隙を見て逃げ出したのか俺の所へと避難してくる。うん、当初とはちょっと違うけど、これはこれでいいな。


「みー」

「ヒィィ!! 猫怖いネコ怖いネコ怖いィィッ!」


……や、ちょっと行き過ぎてる気がしないでもない。
余程ネコが怖いのか、それとも嫌な思い出でもあるのか、流石にこれは見てて可哀想だ。
こりゃロードの言う通り、早く飼い主を探してやらないとな。


「でもさぁ、このネコって何かティッキーに似てるよねぇ。イヴをからかって遊んでるみたいだし、毛もボサボサだし、不潔だし、頭悪いし」

「オイ。後半の言葉明らかに俺に対して言ってんだろ」

「もしかしてティッキーも実は猫だったりして〜♪」

「んな訳ある「いやあああッ! 猫怖いッ、ティキ怖いぃぃーーッ!!」


……早く飼い主を見つけよう。一刻も早く。


( 不 純 動 機 )


「――はっ! 先生まさか、私を経由してお母さんを狙ってるんじゃ!?」
「ねーから安心しろ」
 
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