12月25日。
国によっては風習も日付さえも違うけれど、一般的にはクリスマスだろう。
多国籍である教団もそれは例外ではなく、教団内にはいたる所に電飾が施されていた。
広間には馬鹿でかいクリスマスツリーまで。きっとコムイさんが何か企んでるんだ。
「はぁ……」
コムイさんが暴れる。もとい、起すであろう問題を思って溜息が零れた――訳ではない。
恐らく開かれるだろう稼ぎと……じゃなくて、パーティに参加できない事での溜息だった。
と、いうのも。
「何で、こんな日に任務なんだろう」
手元にある資料へとチラリと視線を落としては、再び深い溜息が零れていく。
そりゃイノセンスやアクマ達はクリスマスだからって待ってはくれないだろうけど、でも、もう少し空気を呼んで欲しい思ってしまう。しかも行き先は南半球。何の嫌がらせ?
「せめて、イヴと踊りたかったなぁ……」
ラビから聞いた話なんだけど、毎年クリスマスパーティにはダンスが開かれるらしい。
元々教団員に女性が少ない為か、前もって『予約』が殺到するらしくて。
中でも凄いのが、言うまでもなくリナリーとイヴなんだそうだ。凄く分かる気がする。
あ。あと別の意味でコムイさんも凄いらしい。武器とか毒薬とかの開発量が。
「きっと今頃、ラビとかが予約してるんだろうな」
何せイヴの元に行く途中で、その話を聞いたんだ。
絶対今頃イヴからの承諾を得て、無駄にはしゃいでるに決まってる。ああ、ムカツク。
大体、なんで僕だけ任務なんだろう。
もしかして新人イビリ?
新人はパーティに参加できると思うなって事なのか?
何所の学園ドラマものだよ。……いや、学園ドラマものでもそれなりに『特典』はつく筈。
僕の場合、何のメリットも存在していないぶんドラマより酷い気がする。クソムカツク。
それに、すっかりクリスマスで忘れ去られてるけど、今日は――。
「あ。いたいた、アレーン」
「え? あ、イヴ」
一人ブツブツと愚痴……もとい文句を言っていると、背後から大きな声が聞こえてくる。
その声にクルリと身体を反転させれば、反対側の廊下からイヴが向かってきた。
……なんか、仔犬みたいだ。いや、彼女の場合は小鳥か?
羽をもたつかせながらも必死に飛んでいるように見えて、思わず和んでしまう。可愛いな。
「――ん?」
先程の憂鬱が嘘のように、ほわわんと、していた僕。……だけれど、走っていたイヴの脚が少し離れた所で止まった事に、小さく首を傾げる。
なんで止まったんだろう?
それに、何所を向いて……あ、どうやら誰かに話し掛けられたらしい。
数秒程話したかと思えば、イヴは片手を軽く横へと振り、再び僕へと走ってくる。
何を話してたんだ?
手を横へと振っていたという事は、別れの挨拶なのか、それとも否定の意味なのか。
「あ、また……」
うーん。と、小さく眉を潜めていた僕を他所に、また違う人物に呼び止められている。
本当に何してるんだろう。服装からして科学班……って、訳でもないし。
思わずジーっと二人を見つめていると、やはり数秒後に手を振って再び走り出すイヴ。
どうやら手と一緒に首も動いている所を見ると、別れの挨拶ではなく、後者の方らしい。
「……」
でも、何を否定してるんだ? と、更に顔を顰めると、三度イヴの脚が止まる。
まだ距離がある事で会話こそ聞こえないけれど、相手の顔を見て取る事はできた。
何所と無く頬を赤らめ、緊張した面持ちの 男 性 。
ま、まさか――!
「ごめん、アレン。お待たせ!」
「あ、あの……今の人達って、もしかしてダンスパーティの誘いとか……?」
漸く僕の元へと到着したかと思えば、つい思った事が口から零れてしまう。
ああ! せめて一言「大丈夫ですよ」って言ってからにすればよかった……!
「ん? まぁ、そんな所かな」
「そー、ですか……」
苦笑のような、照れ笑いような曖昧な表情を浮かべるイヴ。
と、そんな彼女を前に、あからさまな程に落ち込む僕。
パーティに参加できないだけではなく、好きな女の子が他の男にダンスを誘われている所を見せられるなんて……本当に僕はアンラッキーボーイだ。うう、へこみそう。
「んじゃ、行こっか」
「――へ?」
ずーん。と暗く重い雰囲気を纏っていた僕を隣に、イヴの明るい声が響く。
って、行く? 何所へ?
「あれ、まだコムイから任務の事聞いてない?」
「えっと、任務なら受けましたけど……」
「そっか。コムイそれしか言わなかったんだ」
んん? もしかして、これって……。
「私もアレンと同じ任務なんだ。よろしくね」
そう、ニコリと微笑むイヴに、思わず硬直する僕。
任務……同じ任務……ん? 同じ任務=クリスマスをイヴと、二 人 き り ?
「え……ええええっ!? ほ、本当に? 本当にイヴと一緒の任務!?」
「ん? 私とじゃ不満デスカー?」
「ととととんでもないっ!」
小さく首を傾げては、下から僕の顔を覗き込むイヴに、思い切り顔を横へと振る。
不満だなんてまさか! 大歓迎を通り越して嬉しすぎる! ……あれ、何言ってるんだ僕。
ともかく、イヴと一緒の任務が凄く嬉しいって事。
「よかった。実はコムイに無理言ってアレンと一緒にして貰ったんだ」
「え?」
ニヒヒ。と、照れくさそうに笑みと共に、イヴから言葉が零れる。
む、無理言って、って事は……イヴが頼んだって、事、なのかな……?
え、これってもしかして、もしかして……!
「会った事のない神様を祝うよりも、傍にいる大切な人の誕生日をお祝いしたいからね」
ああ、どうやら今日の僕は。
「誕生日おめでとう、アレン」
世界で一番の、ラッキーボーイなのかもしれない。
( 神 様 は イ ジ ワ ル )
「そうそう。今回はユウも一緒らしくて、現地で合流するんだって。向こうついたら 三 人 でケーキでも食べよっか」
――バ神田さえいなければ……ッ!!