「勿体無いな」
隣へと言葉をかける。聞こえているかは分からない、俯いているせいで顔が見えないから。それでも気にせずに、俺の肩に寄りかかっている少女へと口を開いた。
「お前の事、結構気に入ってたんだぜ。なのに簡単に死んじまうなんて」
まぁ殺したのは俺なんだけど。イノセンスが身体の中、まして喉じゃなかったら殺さずに住んだんだけどなー。
「済んじまった事はどうしようもできないか。問題はこれからどうすか、だよな」
アクマにするって手もあるけど、できるなら今の姿でいて欲しいんだよね。綺麗だし、柔らかいし、良い匂いするし。でも死んじまったら後は腐っていくだけだしなぁ。
「まぁ、夜明けまで思考タイムって事で」
煙草に火を付け一服。近くに仲間も居ないようだし、ゆっくり考えるとするか。なんたって一度しか選べない訳だし?
「しっかしちっさい手」
力なく垂れている手に触れる。ロードも小さい事は小さいけど、こんな風に触ってみたいと思った事はない。細い身体も、髪も、唇も。こいつだからそう思うのだろうか。なら尚更このまま残しておきたいな。
「――ああ。アクマじゃなくて人形にするか」
そういえばロードがそんな事を言っていたな。こいつの容姿ならきっと千年公やロードだって気に入るだろ。
「あー。でも屋敷に置いとくとロードに壊されそうだな」
帰ったらコイツがバラバラになってた、ってのはちょっと嫌だな。かと言って普段屋敷にいない訳だし、どうしたもんか。
「……ん?」
紫煙を燻らせながら考えていると、ふと声が聞こえたような気がした。いや、声と言うより音に近い。それこそ隙間風のような音。
首を傾げながら耳を澄ましてみる。どうやら発生源は隣らしい。
「まだ生きてたのか。なにか言いたいんだろうけど、喉、つぶれてるから無理だよ」
イノセンスを破壊するには喉も潰すしかなかった。だから喋ろうとするだけ無駄。そう言おうとして、とある事を閃いた。
「まだ生きてるなら動く人形にするか」
そうだ、そうしよう。それなら常に持ち歩けるから壊される心配もない。我ながら名案だ。
「そうと決まれば早速」
小さな身体を抱き上げ立ち上がる。露になった顔は、恐怖と絶望に染まっていた。
「大丈夫だって、悪いようにはしないからさ」
小さく笑い、白い額へとキスをする。そのまま「ただ」言葉を繋げた。
「死んだと思っていたお前が本当は生きていて、敵の人形になってると知った時。お前の仲間がどんな表情を見せてくれるのかと思うと――楽しみで笑いを抑えられそうにないよ」
(肩を寄せ合い夜明けを待とう)