その日の暗闇は普段よりも深い反面。

赤やオレンジといった明るい電飾によって何所か幻想的な美すら感じられた。


「――はぁ〜」








ガヤガヤと賑わう道を前に、うんざりといった表情を浮かべるティキ。

彼の(秘密裏の)計画では今頃イヴとにゃんにゃん(死語)している予定だっただけに、
理不尽すぎる現状に深い溜息を落さずにはいられなかった。


「折角の休みだってーのになんで餓鬼の面倒みなくちゃいけないんだか…」

「「餓鬼じゃねえっ!!」」


煙草をふかしながら小さく呟いたティキとは逆に隣にいたジャスデビ達が大声を上げる。

ついでにティキに向かって蹴りを繰り出すもいとも簡単に防がれてしまっては、
場所を弁えずに銃口を向けようとする――が。


「おっまたせ〜♪」


二人が暴れ始める前にロードの陽気な声が響いた事で幸い大事にはならかったらしい。


「おっせーんだよ! ロー…」


ド。と言葉を繋げようとしたデビットだが
ソレよりも先に遅れてきた少女二人の姿を見ては言葉を詰まらせてしまう。


「じゃ〜ん! どぉよ?」

「ちょっと恥かしいけど…」


クルリとその場で一回転するロードは勿論。
隣で裾の短い事を気にしているイヴもまた普段と違う服装――浴衣を身に纏っていた。

ただし周りを歩いている日本人達とは違い、言うなれば西洋被れ(ゴシック調)の浴衣で。
イヴが気にしている通りにフリルが散りばめられた裾は短く、
動く度にちらちらと白い脚が見え隠れする程。


「「「・・・」」」

「キャハハ! ね、イヴ。言った通りだろぉ?」


(色んな意味で)見慣れない姿に口を開いたまま硬直する男性陣に、
ロードの甲高い笑い声が響いたかと思えばイヴへと視線と声を向ける。


「ぜぇったいヤロー共は見惚れるってさぁ♪
何せボクがコーディネートしたんだから、間違いなんだってぇv」

「う・うーん…」


自信満々に笑い声を上げるロードとは裏腹に恥かしいのかポリポリと頬を掻くイヴ。

確かにロードの性格は(イヴ以外に対し)一癖も二癖もあるが、センスはいい方…。
というか実に男心を分かっており。


「ロード…グッジョブ…ッ!」

「はぁ!?」

「とぉぜんじゃん♪」


一足先に正気に戻ったティキがグッと親指を立てては、イヴからは呆れたような。
またロードから満足そうな声があがったとか。






何はともあれ全員が揃った事で特等席を確保している千年公の元へと向かう事となった。


「――はっ? じゃあこの花火って千年公が主催したのかよ?」

「ティッキー知らなかったのぉ?」

「まぁその元は私が花火っていうのを見たいって言ったからなんだけど」


どうやら本でしか見た事ない花火を見てみたいと本人は冗談交じりで言ったのだが。
家族想い…というかロードとイヴには極端に甘い千年公が願いを叶えたらしい。
元々今の江戸は千年公の支配下にあるようなもので、花火の一つや二つは容易な事なのだろう。


「千年公も暇な事してんなぁ…」


そんな事をしている余裕があるのかどうかはさて置き。

実はこの呆れた表情を浮かべている男が最近無駄に忙しかったのも
花火の材料を集める為に【お使い】をさせられていたからなのだが・・・。
それに気が付いていない彼はある意味幸せ者なのかもしれない。


「んな事よりさっさといこうぜ!」

「ヒヒッ、そろそろ始まるス!」

「千年公待ちくたびれてるかもねぇ♪」


そうはしゃぐ三人の姿はまさに年齢そのものの子供のようで、
手をロードとジャスデロに牽かれているイヴもまた連れられるようにバタバタと掛けていく。


(・・・なんか俺ら本物の家族っぽくね?)


確かにここにいる5人は家族ではあるのだが、世間一般の【家族】とはちょっと異なる所がある。
それでも今はそこら辺を歩いている普通の家族と同じように見られている筈。


(とするとまぁ俺が父親だよな)


あんなデケェ上に可愛くもねぇ子供なんかいらねえけど。 と心の中で呟くも、


「・・・ま、たまにはいいかもな」


子供達に手を引かれている少女が母親的位置である為に満更でもなかったらしい。


「千年公ーーー♪」

「おヤvやっときましたネv」


ティキがそんな事を考えているうちに一向は開催者であり、
一足先に来ていた千年公の元までたどり着いていた。

真っ先に千年公へと抱きついたのは言うまでも無くロードで、その姿は何時もながらに孫と祖父のようだ。


「二人ともとてもよく似合ってますヨv」

「へへーん、ボクが選んだんだからとぉぜんだよぉ♪」

「千年公、我がまま聞いてくれてありがとう!」

「この位お安い御用でスv」


ロードが孫だとすればイヴの頭を優しく撫でる姿は差し詰め父親と娘と言った所か。
(さり気なく「駆け回ったのはティキぽんですしネv」 と言っていたのだが、幸い二人の耳にその言葉が入る事はなかったらしい)

しかし父親であり祖父であるこの男が実は世界を破滅させようとしている――なんて、初めて彼らを見た者に話したら間違いなく笑い話にしか聞こえない。
ましてこの光景を敵であるエクソシスト達が見たらなんと言うか。

――そんな事を考えているのは、恐らくこの中でも旦那…もといティキだけだろう。


「それではそろそろ始めますかカv」


現に子供(と母親…もといイヴ)達は花火の方へと興味を惹かれており。
打ち上げを任しているアクマへと指示を出す千年公の隣で今か今かと夜空を見上げていた。

千年公の合図を受け数秒程辺りが静まりかえったかと思う…と。


――ひゅるるる…ドォンッ!!


「「「おーー!!」」」


辺り一面の夜空が一瞬昼間のように明るくなっては直後に大きな音が辺りへと響き渡る。

数秒間ではあるが夜空に浮かんだのは花の形であり、
黒いキャンパスに浮かびあがったソレに同時に一同から歓声もあがる。


「凄い凄いっ!!」


中でも一番喜んでいるのは言い出した張本人であるイヴで、
初めて目にするそれに誰よりも瞳を輝かせては感動しているようだった。


「さぁ、ドンドンいきまショv」


喜んでもらえている事に気を良くしたのか。
再び千年公から合図の声があがっては夜空へと大きな花が咲いていく。


「あーっレロだぁ!」


どうやら咲いていくのは花だけではないようで、千年公愛用のカボチャの傘の顔が出たかと思えば。


「見て見てティキ! ティーズもいる!」

「へぇ、こってんなぁ」


ティキとイヴのゴーレム事蝶の形をした花火や。


「ヒヒッ! 社長だ!」

「ギャハハハッ!!」


挙句にはシルクハットが特徴の千年公を真似た花火までもが上がっていたのだった。

もしこの花火をエクソシスト達が見ていたものなら
間違いなく千年公が絡んでいると思い乗り込んでくるかもしれないが。
ノアが集結している事から迂闊に手をだしたらどうなるか…等目に見えているだろう。


「よしジャスデロ! 俺達も花火打ち上げにいこうぜ!!」

「やるやるッヒヒ!」


言葉と同時にチャキッと愛用の拳銃を構えては打ち上げアクマがいる場所へと走っていくジャスデビ。


「イヴ、ボクらも行こぉ♪」


そんな双子の言葉に面白そうだと言わんばかりに背後へと振り返るロード…だが。


「――って、いねーし」


先程まで確かに背後にいたイヴが居なければ隣にいた男の姿も無くなっていたらしく。
何所に行ったか――等は考えるだけ野暮であり、また無駄だろう。


「おやおヤ、ティキぽんにも困ったものでスv」

「ま、こうなる事は分かってたけどさぁ」


辺りは真っ暗。
周りの視線は夜空。
そして手元には普段と違う服装をした魅力的な恋人。

こんな美味しい状況を万年発情期男が見過ごす訳もなく。


「まぁ分かってた上で脱がせ難い浴衣を選んだんだけどねぇ。
第一脱がせた所で着方なんか分かんねーだろうし♪」


またこの少女がその男の思想に気が付かない事もなく。

一番幼くみえるこの少女こそ一番の強敵なのかもしれない。



( 流 れ キ ラ リ )


「ですが【選択】を持つティキぽんには関係ないのでハ?v」

「ティッキーのアホには関係なくてもイヴが嫌がるもんね♪」

 
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