「花火大会?」


そう言葉にしてはティキの顔にキョトンとした表情が浮かぶ。

ここ最近やけに恋人が上機嫌である事には気がついてはいたが、その理由までには詳しく尋ねる事はしなかった。

彼の保身の為に言っておくが決して理由に興味がない訳ではない。

ただここ数週間の間やけに長からの頼みごとというお使いで忙しく。

早朝に屋敷を出て帰ってくるのは大抵深夜過ぎ。
正直恋人との甘い時間もなければゆっくり会話する事とて数週間ぶりかもしれない。


なら何故機嫌がいいと知っているとかと言えば、眠っている時まで笑顔を浮かべているし。
時間が取れない事に対して何一つ文句を言わない姿からそう判断したのだろう。
(というより元々時間が取れない事に文句を言うタイプではないのだが)


そんな訳で漸くオフを貰ったティキは、今日こそは一日中彼女事イヴにべったり(ねっとり)くつっいて数週間分の時間を(濃厚)に取り戻そうと考えていた。

…のだが。

そこまできて話は冒頭の台詞へと戻る事になる。


「花火って、あの日本のあれ?」

「そうだけど…ティキが知ってるなんて珍しいね」


夜に雨降らなければいいけど…。
なんてさり気なく毒を吐くイヴにグサリと見えない棘が刺さったような気がしたとか。


「俺だってそんくらいしってるし。んでそれがどうしたって?」

「今日の夜やるんだって、ティキも一緒にいかない?」

「は? 今日?」


まさか今日ソレが行われるとは予想だにもしておらず。
頬杖から顔を上げては再び唖然とした表情が浮かんでしまう。


(何でよりにもよって今日なんだよ…)


恐らくここ数日の彼女の上機嫌の理由は明らかにその【花火大会】なのだろう。

ティキとしては花火なんかよりもイヴと二人でまったりねっとり過ごしたい、のだが。

もしここで【行かない】を選択した場合、彼女の機嫌は一気に急降下するか、或いは一人寂しく久方ぶりの休みを味わう事になるか。

どちらにしてもいい結果は期待できない。


(…いや、まてよ。屋敷から外に変わっただけだと思えばいいんじゃね?)


何もまったりねっとりべったりできるのは屋敷の中だけとは限らない。

まして時間は花火が最も映える夜であり、花火の為に近隣の明かりも薄っすらとしたものになるに違いない。


「別に行ってもいいぜ」

「ほんと?やったっ!」


暫し間があった事で不安そうな表情を浮かべていたイヴだが。
承諾の返事が帰ってきた事に子供のように無邪気に喜んではティキへと抱きつく。

よもやその男がそれはそれは恐ろしい事を考えているとも知らずに…。


「話終わったぁ?」


ニヤリと黒い笑みを浮かべは少女の体を抱き返そうとしたティキ。
しかし彼の腕がまわるよりも早く、部屋の出入り口から別の少女…ロードの声が響き渡った。


「ロード、ティキもいくって!」

「ま、だろうねぇ。ちなみにジャスデビ達もいくってさぁ」

「・・・は? 双子もくんの!?」

「イヴと二人きりだとでも思ったんだろうけどお生憎さまぁ〜♪」


ケラケラと笑っていたかと思えばドアにかけていた片足を下ろし。
そのままイヴの傍へと寄って来ては何時ものように彼女へと抱きつく。


「イヴ、早速服選びいこ〜♪」

「うん! じゃティキまた後でね!」


茫然としているティキを他所に部屋を後にしていく少女二人、だが。

ふとロードが振り返えったかと思えば、ニィと先程のティキよりも黒い笑みを浮かべる。



――どうやらティキの考えはものの見事に読まれていた挙句。

実行する前から阻止されていたのだと。

漸く浅はかな男が悟ったのだった。



( 理 と 現 実 )

 
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