珍しく大喧嘩をしてしまいました。



「イヴなんか」

「アレンなんか」


「「大ッ嫌い!!」」



そう互いに叫ぶや否や、ふんっ!と顔を背けては別々にその場から立ち去っていく。

偶然そこに出くわした人達は皆茫然とした表情を浮かべていたけど、
今は弁解するよりも何か文句でもあるんですかって思い切り睨み付けたい気分だった。

…多分睨みつけてただろうけど。



「イヴの童顔っ、子供体系っ、我が儘!……えーと…」


他に何か悪口は無いかと頭を回転させるものの、結局それ以降何も思い浮かぶ事はなくて。
…はぁ、と口から大きなため息が落ちていく。


「…何でこうなってしまったんだろう…」


僕はイヴの事が心配で言っただけだというのに、
それを聞いた途端に何故か彼女は物凄く怒り出してしまった。

…すくなくとも僕は間違った事は言っていないし、恋人を心配するのは普通の事だ。
まして何時命を落すか分からないこんな仕事なら特に…。

――それなのにッ!


「ああー!もう、こうなったら自棄食いしてやる!」


考えてもイヴが怒る理由が見つからなくて、分からなくて。

この理不尽な怒りを何所にぶつければいいのだろうと考えた結果、
僕は食堂にある物全てを食べ尽くす覚悟でへ一人脚を進めていった。







「「あ」」


でもそう思ったのは僕だけではなかったらしく・・・
食堂に入ろうとした所で先程別行動を取ったばかりのイヴと遭遇してしまった。

でも少し離れていた事で大分気持ちが落ち着いたのか、
先程までの怒りを忘れ今ここで謝ってしまおうか――と考えていた、その時。


「よぉお二人さん。相変わらずバカップルさねぇ」

「「だ・誰がこんな人(奴)と!!」」

「へ?」


背後から聞こえてきた声に思わず思ってもいない声をあげてしまえば、
目の前にいた彼女からも同じ言葉が聞こえてきた。

どうやらイヴはまだ怒っているらしくて、
僕もまた聞こえてきた言葉に再びカチン。と怒りスイッチが入ってしまったのが分かる。


「「ふんっ」」


分かれる前のように顔を背けるものの今度は同じように一直線に食堂へと入っていき、
ジェリーさんがいるカウンターを二人同時にバンッ!と勢いよく叩く。


「「ポテトにシーフードカレーにナポリタンにカボチャパイにポテトサラダにクリームシチューにチキンにビーフストロガノフにカルパッチョにクッパにナンにライス、それとデザートにプリンパフェとみたらし団子×30(桃のシャーベット)!」」

「え・えーと…どちらか一方が遅くなっちゃうけどいいかしらん?」


流石にこれだけの量を同時に二人分となると少々時間がかかってしまうらしく「ごめんなさいねぇ」と謝(りつつ引いてい)るジェリーさんを隣に、キッと互いに睨みあう。



「たとえ自称だろうがまがいなりにも紳士というくらいなんだから、
当然レディファーストよね?」

「仮にも慈悲深き歌姫という似合わない異名があるんですから、
慈悲深く僕に譲るべきではないんですか?」



ハンっと嘲笑うような言葉を零すイヴに対して、
負け時と腕を組んだまま上から見下ろすような視線を向ける。

イヴの身長を追い越したからこそできるこの行動は本人如く物凄くムカツクらしい。


「ムッカ・・・!大体何で私と同じ料理ばっかり頼むのよ!!
わざと被らせて私の食事を邪魔しようっていう魂胆?!」

「僕が被らせたんじゃなくてイヴが被らせたんでしょう?
もしかして僕と一緒の物が食べたかったんですか?
言ってくれれば一口ぐらい 差 し 上 げ て もよっかたんですけどね!」

「だぁれがこんな腹黒男に貰うもんですか!!
大体私の好物を選んで頼んでるんだから一緒の物が食べたかったのはそっちでしょ?
そういえばいっつも人の後ろ追い掛け回してくるし…
やだ、これってもしかして ス ト ー カ ー って奴かしら?」

「(ムッカ!)僕がイヴを追い掛け回してる?
ハッ偶然僕が行く方向にイヴがいるだけだというのにストーカーだなんて、
自意識過剰もいい所ですね。
僕には恥かしくてとてもじゃないけれどそんな言葉いえませんよ」

「ななな…っ!もーあったまきた!!この白髪頭!」

「鏡見た事ないんですか、貴方も十分白髪ですよ!童顔!」

「私のは白銀って言うんです!もやしっこ!!」

「似たようなものじゃないですかっ!子供体系!」

「腹黒!!」

「わがまま!」

「食いしん坊!!」

「欲張り!」



「「「あのぉ…」」」


「「何(ですか)ッ?!」」



ギンッ!と二人して声の方へと睨みつければ、
僕らの後ろには何時の間にか順番を待っている長蛇の列ができていた。


「料理ならもうできてるわよん」


何時の間にかカウンターに置かれている二人分(正確には二人以上なんだけども)の
食事を見ては「うっ…」と言葉を詰まらせる。

つい我を忘れたとは言え、こんな大勢の前で喧嘩するなんて…!


「…アレンのせいで怒られた」

「イヴが悪いんでしょ」

「なっ…また責任転嫁するつも「スト――ップッ!とりあえずここで喧嘩はやめるさ!」


再び口論が始まりそうになった所に歯止めを掛けたのは僕に再び怒りスイッチを入れてしまったラビであり、僕とイヴの間に身体を入り込ませては「とりあえず飯でも食べて落ち着けって!」と喧嘩の仲裁に入ってくれた。

最もそのラビの一言が原因で一度収まった筈の僕の怒りが再発してしまったのだから、
お礼なんて言ったりしないのだけど。



「「・・・フンッ!!」」



とりあえずここで喧嘩する訳にはいかないという事で。
今日何度目かの声と共に、互いに再び顔をそらしたのだった。



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