彼の首に巻いてあるマフラーを掴んでは、唇が触れそうなギリギリまで彼の首を自分の方へと引き寄せる。
苦しいと顔を顰めても手を緩めてなんてやらない。
「また、嘘ついた」
私が知らないとでも思ってる訳?
見くびらないで。
「アンタなんか 嫌 い 」
・・・あ、いいね。
その驚いたような、傷ついたような、悲しそうな顔。
ゾクゾクする。
アンタも何時もこんな感覚を味わっているの?
「ちょ・・なんの事だよ」
「自分の胸に聞いて見なさいよ」
アンタが今まで私に内緒で何をしたか、私の口から言わせる気?
――ホント、酷い男。
「大嫌いよ、ラビ」
そう告げるが速いか、身体を伸ばしスレスレだったソレを重ねる。
瞳を閉じているから確かめる事はできないけど、彼が驚いているのが分かる。
それでも深く深く、言い訳なんて一言もさせない程深く口付ける。
「・・・ハァ…ッ」
身体を離すと聞こえてきたのはラビの荒い息遣いで、私という支えが離れた事でまるで腰が抜けたみたいにその場へ座りこんでしまった。
そんな彼の表情には色々なものが含まれていたけど、きっと今一番感じているのは――恐れ。
私に嫌われたのではないかという恐怖。
そんな姿を見ては、自然と笑みが浮かんでしまう。
「…イヴ…?」
…ああ、もうだめ。
「ラビ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・可愛いッ!」
「うおあっ?!」
地面へ座り込んだまま怯えたような視線で私を見上げていた彼に勢いよく抱きつく私。
それこそ、ぎゅうッとい効果音が付きそうな程で。
母性本能を擽られるってこういう事をいうのかしら?
「ちょ、ちょっと待つさ!一体何が何やら・・・?!」
「驚いた?」
先程の暗い声や突き放すような言葉とは打って変わり、ニヒヒ。と笑みを浮かべなが座り込んでいるラビの脚の上へと座りこむ。
ラビも驚いてはいるもののその手はしっかりと私の背中へと回っていて、例えそれが無意識であろうとも嬉しい。
「じゃあヒント。今日は何の日でしょう」
「今日…8月10日・・・・・・オレの誕生日…?」
マサカ…。と薄っすらと顔を顰めるラビとは裏腹に、私はニッコリと笑みを浮かべ「ぴんぽーん」と言葉を繋げる。
「プレゼントは『私のありがたさ』さ」
自分で言っててちょっぴり恥かしかったけど、私にしか送れない私だけのプレゼント。
いつか壊れる物よりも、いつまでも壊れる事のない記憶として残していて欲しかった。
例えいつか膨大な記憶の彼方に埋もれてしまったとしても、それでも壊れる事はない。
そんなプレゼントを。
「――はああぁぁ」
そう告るなり深い深いため息を落すラビに、ちょっとだけ不安になり顔を覗かせる。
やっぱり少しやりすぎたかな?
「ホンット、お前にだけは勝てる気がしないさぁ」
怒られるのかと思って小さく身構えるものの、言葉と共にぎゅーっと強く抱きしめられる。
お互い離れように強く抱き合っている為表情を見る事はできないけど、きっとラビも私も同じような顔をしていると思う。
幸せっていう――そんな表情を。
「でも嫌いっていうのは例え嘘であっても効いたな〜…」
「だって嘘じゃないし」
「・・・えっ?!」
サラリと告げた私の台詞に抱きしめあっていた私の身体を離し、真正面から顔を見合わせる。
安心しきっていただけに先程よりも一層慌てた様子のラビに、クスと笑みを零すと。
「私の今の気持ちの正反対の事を言っただけ」
「・・・それってただの屁理屈だろ!」
ラビの表情に思わず笑いを零している私に、その笑いを止めさせようと悪戯っぽく私の首に腕が回る。
勿論力なんて全然篭っていないから痛くも苦しくも無くて、それが余計に笑みをこみ上げさせる。
「くっそー。イヴの誕生日の時は倍にして返してやるさ!」
「いやいや、私は普通の物のプレゼントがいいなァ?例えば宝石とかアクセサリーとか」
「よし、ならプレゼント渡すフリして買ってない作戦にするか」
「うっわ、それサイテー」
二人してケラケラと笑いながらも体は離れる事はない。
傍から見ればとんでもないバカップルに見えるのだろうけど、幸いここは私の自室で他に誰もいないし人目につく事もない。
「追加プレゼントあげるからちゃんとプレゼント買ってね?」
「そりゃ追加プレゼント次第って事で」
ラビの腕から抜け出しては再びラビと向き合うと、私が何をプレゼントするのか分かっているかのようにニヤ付いているラビの表情が目にはいる。
何だかその顔を見ると素直に渡したくなくなるけど、今日は誕生日だから多めに見てやるか。
「自慢の一品ですよー。何せラビさんが一番欲しいものですから」
「流石オレの女さ」
その言葉を境にどちらとなく向き合っていた顔や体が再び近づいていき、やがて二つのシルエットも一つへと重なっていった。
( 嘘 付 き な 唇 )