目を瞑っていても眩しい事から、時間は恐らく朝か昼。
もう起きなくては行けないと分かっていても、体がいう事を聞かない。
というか痛くて動かない。……主に腰が。
「おーい、何時まで寝てんだ?」
もぞもぞと動いてはシーツに包まっていると、不意に扉の方から声が聞こえてきた。
つい先程まで隣のベッドに居た彼の声。ついでに言うと、痛みの原因を作った人。
「ほら、さっさと起きろよ。もう昼近くだぞ」
近づいてきた気配を感じたかと思えば、グイッと包まっているシーツを引っ張られる。
妙に張り切った声なのは、恐らく普段とは逆の立場のせい。いつもは私が起す方だし。
なんて事を思いつつも、小さな呻き声と共に抵抗を示す。
だってこの下、何も着てないし……。てか、絶対知っててシーツ剥がそうとしてる。
「『うー』じゃなくて起きろって。夜、寝れなくなるぞ」
「夜、寝かせてくれるの?」
「……」
何故黙る。
其処って黙る所じゃないよね。普通承諾する所だよね?
「あーうん、とりあえず善処? は、するよ?」
いや、何で疑問系なんですか。語尾の"?"入らなくないですか。
と言うか、善処って言葉の意味分かってるのかなぁ。……や、絶対口だけだよね。
「だから早く起きろよ。――あ、それとも、キスしないと起きたくないとか?」
「さーて、起きようかな」
ティキの声色が変わったと同時に、パチリと瞳を開いては体を起そうとする――ものの。
「ワガママ姫の為なら仕方ねぇな」
「ちょ、起きるってっ!」
体を起すよりも早く、ベッドへと肩を押し付けられてしまう。
って、なんか目的というか話変わってきてません?
「もう起きてるんだからそんなの必要ないってば!」
「いやいや、まだ寝ぼけてるかもしんねぇし。童話みたいに王子様のキスが必要だろ?」
「そんなの要らないし!」
大体そんな歳じゃ無いくせにっ。って声を荒げたら、「酷!」と声が返ってきた。
だって、王子と呼ばれる事が許されるのは20代前半までだろうし。
というより、ティキに王子自体似合わないっていうか。
「や、そこまで言わなくてもよくね?」
「本当の事だし? 大体、王子自体必要ないでしょ」
「なんでよー。もしかして童話嫌い?」
うーん、そこまでではないけど。でも、だからといって好きでもない。
私も童話に拘るような歳じゃないしね。
「まぁ確かに、云百さ「女性の年齢を告げるのは無礼極まりないです」
だからと言って納得されるのも何か癪だったので、手の変わりに足で蹴ってやった。
予想外の行動だったらしく声も出ない程痛がってるみたいだ。因果応報、自業自得です。
そのうちにと、体にシーツを巻きつけた状態で上半身を起こしておく。
よし、ティキが変な事言い出さないうちにシャワーでも浴びてこよっと。
そう痛がってるティキをスルーしては、備え付けのバスルームへと向かう……ものの。
「ちょ、何か俺の扱い酷くない? あれ、俺ってもしかして愛されてないとか? はは、そうだよなー。昨日だって散々抵抗されにされまくったし、今朝だって俺から離れて寝てたし。つか床に落ちてたし。え、何、もしかして傍で寝たくない程嫌われてるとか? あー、もう立ち直れねぇ」
わー。何かブツブツ言ってる。
何か背中丸くして床に「の」の字書いてる。
何か物凄いヘタレがここにいる。
――うん、こういうのは関わらない方がいいよね。
とりあえず無視し「はぁぁぁ」……。
「あー、もう分かったってば。私が悪かったです、言い過ぎました」
半ば、というか、それこそ"やけ"のように言葉を告げる。
言葉と共に溜息も零れてたけど、こんな恋人の姿を見せられたら誰だって落るって。
大体、散々抵抗した所で結局引き下がらなかった人がよく言うわ。
それに離れてたんじゃなくて、背中向けて寝てただけだし。
床に落ちてたのだって、ただ寝相で落ちただけなの知ってるくせに。
「別に、口だけなら何とでも言えるし。つか投げやりっぽいし」
こ、こやつは……。
もう、放っといてシャワー浴びちゃおうかな。
でも、放っておくと後で煩そうだし。
ティキって結構根に持つタイプだし。
特に夜とか夕方とか明け方とか。
……。
妙な身の危険を感じて来たので、ティキに気付かれないようにそっと背後へと回り込む。
今だブツブツ言っている事で、私には気がついていないらしく。
―ちぅ
「!」
その隙にと背後から頬に軽くキスをすれば、驚いたようにティキが振り返った。
てか、振り返るの早っ。
「さ、さっきも言ったけどティキは王子様じゃないから」
「うん?」
体に巻いているシーツを握っては、ティキから視線を逸らしつつ言葉を告げる。
驚いている間に逃げようと思ってたのに、立ち直るのも早いんですけど。
「だから……王子様のキスは要らないけど、ティキのは別っていうか、なんというか」
「え? よく聞こえなかった」
もう一度言って? と言葉をかけてくるティキだけど、その表情は明らかに企んだ笑み。
絶対今の聞こえてたに違いない。聞こえててわざと聞き返してきてるんだ。
今までいじけてたくせに、変わるのも早……あれ。
というか――まさか、全部、フリ?
「〜〜ッ、お風呂入ってくる!」
「んじゃ俺も「来たら一ヶ月別居」大人しく待ってます」
バタバタと部屋の中を走っては、バスルームへと向かう私。
背後から小さく笑うような声が聞こえていた所を見ると、多分、気付かれてたらしい。
「ティキは絶対、王子様よりピエロだ」
それも性質が悪い道化師、だと。
耳まで赤くなった顔を押さえながら、バスルームへと逃げ込んでいった。
嘘つきピエロの知略