よく他人に言われる事がある。
学無し、ホームレス、ヘタレ、そして――。


「シスコン」

「お前がいうのかよ」


双子やロード、まして他人から言われたとしても何とも思わない。……んだけど、妹のイヴから、しかも面と向かって言われると妙にグサッとくる。俺が何したってんだ。


「一日置きにお土産買ってくる時点で既にシスコンだと思うけど」

「あ? 前にソレ欲しいって言ってなかったっけ?」

「……確かに言ったけどさ。三ヶ月前に」


一.ニ週間程ならともかく、三ヶ月も前の事なんて普通覚えてないデショ。と、呆れた表情でお土産の品へと視線を向けるイヴ。

そりゃ他の事だったら綺麗さっぱり忘れてるんだろうけど、イヴの事だったら何ヶ月、いや、何年だって覚えてられるぜ?
例えば十歳の時にくれた誕生日プレゼントとか、五歳の時に迷子になって大泣きした事とか。そうそう、十二歳の時にイヴと仲が良かった野郎の名前とかもしっかり覚えてんなぁ。
後々脅……ゴホン、挨拶に行ったぐらいだし。


「うわぁ……」

「え、ちょ、何この距離。何でこんな距離開けてんの? 寧ろ何でそんな体引かせてんの?」


別に間違った事言ってねぇじゃん。って告げたら、間違ってないからキモイんじゃんって言い返された。いや、キモイはなくね? 幾らなんでもキモイは酷くね?
ああ、もしかしてコレが俗に言う反抗期って奴か。イヴも大きくなったなぁ。
少し前まで夜が怖いって俺のベッドに潜り込んできたり、俺の服の裾を掴んでは離さなかったり、俺のお嫁さんになるって約束したり……。


「あー……そんな事もあったねぇ。できれば思い出したくもないけど」

「なんでよー。俺にとってはどれも大切な思い出だぜ?」


なんたって俺が手塩に掛けて大事に大事に育てた自慢の妹だからな。
"何処の誰にやっても恥ずかしくない"って言うのは、こういう事を言うに違いない。


「うん、まぁ、その事に関してはお礼を言うよ。おかげで彼とも結婚できるんだし」

「そうだろう、そうだろう。…………ん? 彼?」


うんうん。と顔を頷かせていたものの、「彼」という言葉に思わず行動が止まる。
あれ、今「結婚」っていう言葉が聞こえたような気がしたけど、気のせい……だよ、な。
というか、彼? 今、彼って言った?
いやいや、カレイの間違いだよな? 本当は"狩"とか"貝"って言いたかったんだよな!?


「ううん、間違いじゃないよ。私、彼と結婚するの」


そう告げるイヴは明らかに嬉しそうで、しかも何時の間にか白いドレスを着ている。
白く裾の長い、一般的にウェディングドレスと呼ばれているソレ。
更に手にはブーケを持ち、足元には一直線に伸びる赤い絨毯。


「え……あ? は?」

「今まで育ててくれてありがとう、お兄ちゃん」


訳が分からずただ呆然とする俺を他所に、薄らと涙ぐむイヴ。――え、何で泣いてんの?
つか何コレ、もしかして感動する所? 俺も泣く所なの?
いやいやいやいや、一体何がどうしてどうなってこうなった。


「これからは彼と一緒に歩いていくから、お兄ちゃんも自分の事だけを考えていいんだよ」

「や、あの」

「あ、そうだ。彼を紹介しないとね!」


何言ってんの……? と、問いかけるものの、イヴは答える事無く体を反転させる。
そして、そのまま奥へと小走りしていたったかと思えば。


「じゃーん。彼が私の結婚相手でーす♪」


数秒後、再び俺の前へと現れては、隣にいるソイツへと腕を絡める。
頬を赤らめ、薄らと涙で瞳を濡らして、凄く嬉しそうに。

そんなイヴを見たからか、それともイヴの隣にいる奴を見たからなのかは、分からない。
だけど、確かに、俺には聞こえたんだ。

ブチッと、自分の中で何かが切れる音が――……。




† † †




――所変わって、別室。


「そうそう、その数式はこっちに持ってきて。こことここを先に解くと」

「あー? んなの分かん…………お、できた」

「ヒッ! デロもデロも!」

「うんうん、やっぱり二人共ティキ兄より飲み込み早いね。ティキ兄なんてまず算数から教えないとだし」

「ハッ、あんな学無しホームレスと一緒にすんなっての」

「ヒヒッ、ジャスデビの方が若いし、頭もいいし、勉強熱心だしねっ」

「ほんとにねぇ。前から今日は勉強するって言っておいたのに、向こうで昼寝してるし」

「バカティキに教えた所で時間の無駄だろ。どうせ三歩歩いた所で全部忘れるんだからよ」

「鳥頭、鳥頭、コケコケ!」

「うーん。我が兄ながら言い返……」



 ―ドタドタドタ……バンッ!



「あ、ティキ兄。やっと起きたんだ」

「…………も……」

『ん?』

「……よくも……」

「あ? よく聞こえねぇんだけど」

「ヒヒ?」

「どうしたの、ティキ兄? 変な夢でも」

「……よくも、俺のイヴを誑(たぶら) かしやがったな。クソガキ共……ッ!」

『…………はっ!?』

「 ブ ッ コ ロ ス 」

「ああ!? 突然何言って……!?」

「ヒッ、ヒー!! コイツ目がマジなんだけど!」

「ちょっ、ティキ兄何の話してっ! わわわっ、危ないってば!」

「イヴは誰にも渡さねェーーっ!!」



シスコン注意報
〜夢時々カオス〜

(お題:完全に手を離れるまで)

 
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