共に生を受け、共に生まれ、共に捨てられた、たった一人の家族。世界で一人だけの妹。
僕達自身はよく分からないけれど、他人から見れば「容姿だけは少し似ている」らしい。
あくまで「外見だけ」だけれど。
というのも、僕らには"親の変わり"として多大に影響を受けた人物が二人居る。
一人はマナ。僕らの大切な義父で、僕が最も影響を受けた人だ。
そして、もう一人は――。
「ああ? 喧嘩売ってんのか、テメェ」
「上等だクソガキ。お前如きに武器を使うまでもねェがな」
「テメェの方が年下だろうが!」
「はっ、精神年齢がガキなんだよ。――ああ、脳内年齢もガキだったか。なんだったらこのアタシが直々に勉強をみてやろうか。国語にするか、それとも算数か? おっと、まずは言葉からだったな」
「ブッコロス」
「だぁあ! ユウもイヴもこんな所で喧嘩すんなって!」
……とまぁ、見ても分かる通り、もう一人は僕らの師匠であるクロス=マリアン元帥。
何がどうしてなのか、イヴは師匠からの影響が強い。と言うより、まるで師匠の女バージョンみたいになってしまった。お金にこそルーズではないけど、色んな意味で悪夢だ。
「オイ、アレンッ。お前も見てないで二人を止めるさ!」
食堂が戦場になっちまう。と、慌てるラビを見ては、盛大な溜息が零れ落ちていく。
ああ、また一つ幸せが遠ざかってしまった……。一体僕が何をしたっていうんだ。
「二人を止めるなんて、無謀を通りこして無意味ですよ。どうせ直ぐにまた別の喧嘩をするだけなんですから」
「そーかもしんねぇけどさぁ。だからってこのままって訳にも……」
「大丈夫ですよ。お互い口だけで、本当に戦ったりはしませんから」
いがみ合う神田とイヴに、不安そうな表情を浮かべるラビ。
そんな彼らを隣に、僕は一人山積みにされていた食事を平らげていく。
僕と神田の仲が悪いように、イヴと神田の仲も悪い。僕の場合は、向こうが突っかかってくるのが一番の理由だけど、多分、イヴは違う理由だと思う。
確証はないし説明もできないけど、なんとなくそんな気がする。兄の勘という奴だろうか。
現に今だって睨み合うだけで、自分から殴りかかろうと言う素振りは全く無いし。
「というか、今回は何が原因なんですか?」
さして興味がある訳ではないものの、一応イヴへと尋ねてみる。
二人は何かにつけてよく喧嘩しているけれど、その理由は大抵下らないものだった。
睨み付けられただの、鼻で笑ってきただの、食堂での席を取られただの……よくもまぁ、そんな理由で大喧嘩ができるものだ。何だか夫婦喧嘩のようだと言っていた人もいたっけ。
今回もその類なんだろうと、自分で聞いてお気ながら話半分程に耳を傾けている。……と。
「このクソガキがデートすっぽかしやがったんだよ」
『……デート?』
視線の代わりに神田へと指を差しながら告げるイヴに、思わずラビと言葉が重なる。
多分、ラビも僕と同じで、些細な喧嘩だと思っていたんだろう。
まさかイヴからそんな単語が出てくるとは……と、やっぱり僕と同じように驚いていた。
「訓練しているとかならまだしも、ただ自室で寝てやがったんだ」
「だからそれは明日だと思ってたっつってんだろ! 昨日まで国跨いでて時差が抜け切れてねぇんだよ!」
「だから先に『世界時間での』って何度も釘打ったんだろうが、この無能!」
「ちょ、ちょっと待ってください。さっき『デート』って言いました?」
再び声を荒げて口論し始めてしまった二人へと、慌てて言葉をかける。
口調が似ているからまどろっこしいけれど、確かに先程イヴは『デート』と告げていた。
そしてソレに対して神田からは否定も弁解の声もない。……――と、いう事は?
「あ、あの……もしかして、なんですけど……」
「まさか、お前ら……付き合ってんの?」
ありえない、認めたくない。
そんな気持ちから言葉を詰まらせてしまっては、ラビが変わりに二人へと問い掛ける。
まさか、幾らなんでもそれは無いか。……なんて思う、ものの。
「何だ今更。前にそう言っただろ」
『――はぁあああっ!?』
平然とした表情で答えるイヴに、やっぱり狙った訳でもないのに声が揃ってしまう。
いや、それよりそんな話聞いた事ないんですけど! 今初めて知ったんですけど!!
「そうだったか? 前に言ったような気がするけど……あれは、リナリーだったか?」
「あと、コムイだろ」
ただ唖然とした表情で驚く僕らを他所に、神田へと問い掛けるイヴ。
その問いに神田は軽く溜息を落としたかと思えば、座っていた体をスッと立たせた。
手元にある食器は空になっており、口論していた手前漸く食べ終わったのだろう。
「……行くぞ」
「あ?」
神田から舌打ちが聞こえたかと思えば、今度はイヴが神田へと聞き返す。
行くって何処に? そう言葉の代わりに瞳が尋ねていたのか、神田はクルリと体を反転させ。
「明日にするっていうなら修練所にでも行くがな」
「――。……仕方ない。大分予定より時間は過ぎちまったが、付き合ってやるか」
背中を向けたまま告げる神田に、イヴもまた座っていた椅子から立ち上がる。
僕とラビにはよく分からなかったけれど、多分、イヴは直ぐに分かったんだと思う。
神田の言葉の理由が。今の言葉に、彼なりの謝罪が含まれている事に。
その証拠に、イヴの顔は先程よりも柔らかくなっていた。
言葉こそぶっきらぼうだけど、ふわりと花が綻ぶような笑顔。
恐らく、歳相応の少女らしい笑みとは、ああ言う事をいうのかもしれない。
「じゃあな、アレン。ちょっくら行って来る」
食堂の外へと歩いていく神田を前に、未だ唖然としている僕らへと言葉を掛けるイヴ。
表情こそ歳相応のものだけど、その台詞は間違いなく師匠譲りのもので。
トラウマから無意識に顔を引きつかせてしまう僕を他所に、イヴもまたパタパタと神田の後をついて食堂から姿を消していったのだった。
「なぁ……おもったんさけど、もしイヴとユウが結婚〜なんて事になったら、アレンはユウに『義兄さん』って呼ばれる事になるんじゃね……?」
「――――い、いやだぁああっ!!」
憎たらしい妹と無愛想な義弟
(お題:お題:憎たらしくも可愛い、我が妹)
(お題:お題:憎たらしくも可愛い、我が妹)