世界は、眩暈を起こしそうな程に眩しかった。





『もう幾つ寝るとお正月』なんてイヴが歌っていたけど、今はまさにその状況。
一週間もせず新年へと切り替わろうとしている最中、街は例年よりも遅い初雪が降っていた。

――や。既に止んでるし、積もってるっていうべきかね。

ザクザクと雪の上を歩きながらも、心の中で言葉を呟く。
こんな日に使いだなんて、千年公も惨い命令するよな。しかも相手は街中にいるブローカー。
能力を使えば雪を踏まずに進めるけど、街中である為にそうもいかない。全く面倒だ。

――まぁそれも終わったし、さっさと屋敷に帰えるとするか。

言葉は言葉でも仕事に対する愚痴を思いつつ、住みかとしている屋敷へと脚を急ぐ。
慣れない雪のせいで、上手く前に進めないのが苛立だしい。
いっそ空高くの空気を踏んでいくか。……でも、地上でこれだけ寒いとなると、上はもっと寒そうだしなぁ。あー、早く帰って暖まりてぇ。勿論イヴで。



「あ、ティキー!」



イヴは所謂子供体温っていう奴で、凄ェ暖かい。しかも、物凄く抱き心地がいいんだよ。
なんて、若干危ない事を考えつつ歩いていると、突然、前方から名前を呼ばれた。
白い息を吐きつつ視線を向ければ、前から走ってくるのは、今まさに考えていた人物の姿。
何時もよりも厚着をした状態で、ブンブンと両手を大きく振るイヴ。ついでに普段よりも元気一杯のようだ。多分、というか間違いなく『雪』にはしゃいでるんだろう。
おーおー、子供は元気だよなぁ。……まぁ、実際年齢は俺より上だけど。


「おかえ……りぃっ!?」

「あ」


腕をこれでもかと降りつつ、俺へと駆け寄ってきていたイヴ。だけど、俺同様に雪に慣れていないのか、盛大に身体のバランスを崩しては……。

 ―ベシャ

そんな効果音と共に、顔面から雪の上へと倒れ込んでいた。
あらら、顔面事つっこんでるよ。まぁ、新雪の上っつーのが不幸中の幸いなんだろうけど。


「ひーっ、冷たい!」

「大丈夫か?」


倒れていた身体を起しては、イヴの口から小さな悲鳴が零れる。
いや、悲鳴と言うよりも笑い声に近いだろう。顔も、雪をつけながら楽しそうに笑っている。
それこそ、本当に楽しそうに笑っていて。逆に俺の方が一瞬だけキョトンとしてしまう。
無意識にこんな表情するんだから、ある意味性質が悪い。


「転んだっつーのに何が嬉しいのかね、この子は」


その表情に釣られるかのように笑みを浮かべては、頭や顔に付いている雪を軽く掃ってやる。
手袋をしているせいで感覚こそ伝わって来なかったけど、イヴの鼻が薄らと赤くなっている所を見ると、本当に寒いんだろう。
つか、鼻だけが赤くなるって珍しいよな。頬や顔全体ならしょっちゅうだけど。
……や、可愛いんだけどさ。


「というか、何でこんなトコいんの?」


ま、赤くなる原因も俺にあるけど。
なんて事を考えつつも、座っていたイヴの腰を掴んでは、持ち上げるようにしてその場へと立たせる。やっぱ厚着しててもスゲー軽い。


「そろそろティキが帰ってくると思って」


屋敷の外で待ってたんだ。と、相変わらず笑みを浮かべながら告げるイヴに、またもや言葉を詰まらせてしまう。
あー、もー……平然と嬉しい事言いやがって。ここで襲うぞ、コラ。
……流石に雪が積もってる現状じゃしねぇけどさ。


「そか。結構待った?」

「ううん。ジャスデビとロードと雪合戦したり、大きな雪だるまとか"かまくら"作ってたからそうでもないよ」


そっか……って、それって結構待ってね?
雪合戦はともかく、大きな雪だるまとか"かまくら"って結構時間かかる筈。
第一、ここに居るっつー事は、その二つ共終わったって事だろうし……実は物凄く待ってたんじゃね?


「うわ、冷てっ」


そんな事を思いつつもイヴの両頬へと手を当てれば、直ぐに冷たさが伝わってきた。
手袋越しでも冷たいのが分かるんだから、相当冷え切ってるんだろう。
こりゃ鼻が赤くなるのも当然だな……。髪が凍ってないのが、せめてもの救いだけど。


「手も凄ェ冷たいし。……もしかして俺を待ってたんじゃなくて、ただ外で長時間遊んでただけじゃねぇだろうな?」

「そっ、そんな事ないって!」


――笑顔、引き攣ってんぞ。


「ったく。風邪なんか引かせたりしたら、俺が怒られるっつーの」

「わっ!」


わざとらしく呆れにも似た溜息を落としては、片手の手袋を外し、素手となった手でイヴの片手を握り締める。
そのまま自分の服のポケットへと手をつっこめば、同時にイヴから驚いた声が聞こえてきた。


「ほら、コレそっちの手につけとけ」


驚いているイヴへと、空いている手で手袋を渡す。
そんな俺の行動に、一瞬キョトンとしていたイヴ。――だけど。


「暖かい……ありがと、ティキ」


繋いでいない片手へと手袋をはめては、先程と同じ楽しそうな笑顔。
いや、嬉しそうな笑顔を満面に浮かべて告げるイヴは。
やっぱり、先程と同じように、眩暈を起こしそうな程眩しかった。


O mundo prateado

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -