クリスマスや年末年始に隠れがちではあるが、行事の一つに『冬至』という物がある。
内容も『一年の間でも昼が最も短く、夜が最も長くなる日』と、やや迫力不足な気もする。――が、一説ではクリスマスの元が『冬至祭り』と言われる程に、由緒ある行事なのだ。

そして歴史がある分、時代や地域によって風習も変わるものである。
クリスマスやお正月が国によって違うように、『冬至』もまた国によって様々な風習を持っていた。
中国のとある場所では餃子を食べ、またとある場所では餡子が入った団子を食べる。
更に別の場所では、クリスマスの欧米のように一家団欒で過ごす地域もあるようだ。
そして中国よりも更に東――小さな島国の日本では、というと。


「ゆず風呂ぉ?」

「そ。柚子を入れたお風呂に入ると、風邪をひかないんだって」


他にも南瓜(かぼちゃ)や冬至粥(とうじかゆ)を食べると良いみたい。と、柚子を一つ手に持ちながら告げるイヴに、家族達は話半分……もとい、興味無さ気に耳を傾けていた。


「イヴって相変わらず変な所で博識だよねぇ〜」

「ヒヒッ、日本の文化なんて知ってどうすんの?」

「全くだぜ。大体そんな本当かどうか分からないモノを試すなんて、バカじゃねーの」

「本当かどうか分からないから試すの! 風邪をひかないに越した事はないんだから」


茶化すような言葉を告げるロードやジャスデビ達に対し、ムッとイヴの顔が顰められる。
何だか母親のような態度と言葉ではあるが、それも家族を思っての事。


「千年公からの許可は取ったから、シャワーだけじゃなく浴槽にも浸かるように!」

「「「えー!」」」


……いや、半ば自棄になっているだけにも見えなくはない。


「まぁいいじゃん。たかが風呂だし」


やや横暴な言いつけに子供達から不満の声が零れる中、ただ一人、ティキだけは平然とした表情で言葉を告げていた。
最も、平然と言うより、何所と無く嬉々としているようにも見える。


「なんだったら 俺 ら が先入る?」


ニマニマと腹立つ……もとい、何か企んでいるような笑みを浮かべて告げるティキ。
その瞳の先にいるのは、彼の溺愛する恋人事発案者であるイヴの姿。
恐らく、自分"達"が見本になるべきだ。とでも言いたいのだろう。
彼の言い分――いや、目的を理解しては「どこの変態親父だ」と、子供達から酷く冷たい"軽蔑"という視線を送られる事になったとか。


「だったらボクと一緒に入ろぉよ〜、イヴ♪」

「は?」

「ロードと?」


だが、その視線だけでは足りなかったらしく。
唐突に横槍を入れてきてのは、同性という強みを持つロードだった。
少々食えない性格ではあるものの、同性である手前危険度はグンと下がるだろう。……最も、"ティキ以外"であるなら、誰でも危険度は下がるのだが。
それに何より、一緒に入る事で確実に柚子風呂に浸からせる事もできる。まさに一石二鳥だ。


「うん、い……」

「ダメダメ。イヴは俺と入んだよ」

「えー! ボクもイヴと一緒がいいー!」

「ヒヒッ! デロもイヴと一緒に入りたい!」

「あ!? 正気かよ、ジャスデロ!」


イヴにとってデメリットが無い為に承諾しようとする。――が、それよりも先にティキが返答した事でロードから不満の声があがり、また、ジャスデロが横から口を挟んだ事で、デビットからも驚いた声が零れる。
何だか徐々にカオス……もとい騒々しくなって来た。


「デビも一緒に三人で入ろ、ヒヒッ!」

「は、はぁっ!? お、俺はいい! つか、お前本気で言ってんのかよ!?」

「ヒ?」


顔を赤面しつつ問い掛けるデビットを隣に、ジャスデロの首が小さく傾げられる。
まだ大人ではないとは言え、幼い子供と言う訳でもない。
所謂微妙な年齢。気難しいお年頃という時期なのだ。
ジャスデロはともかくとして、流石に"健全男子"であるデビットには抵抗があるのだろう。


「そういえば前デロと一緒に入ったっけ」

「「なにっ!?」」


そう、正反対の表情を浮かべている二人を前に、サラリとイヴの口からから爆弾が投下される。真っ先に反応を示したのは、言うまでも無くデビットとティキだった。


「デロってメイク取ると結構顔変わるよね」

「ヒヒッ!」


メイクしている姿もいいけど、とってもカッコよかったよ。と、無自覚で更に追い討ちを掛けるイヴに、ジャスデロの頬にも薄らとした赤みがかかる。
何だか微笑ましい光景ではある。――が。


「ジャスデロ、テメェ……」

「人様の女と風呂に入るなんざ、いい度胸してんな。ああ?」

「ヒ? ……ヒッ!?」


嫉妬深い男と、素直に慣れない青年。そんな二人からの妬ましい視線を一身に受けた事で、デロの顔は赤くなった直後に青へと変ったのだった。ある意味信号機だ。



「ともかく、イヴは俺と入んの! お子様達はさっさと浸かって、さっさと寝とけ」

「んだよぉ、ティッキーばっかりぃ! 今日ぐらい貸せよなぁ」

「デ、デロもイヴと背中流しっこしたいッヒ!」

「お、俺は別に一緒じゃなくってもいいけど、イヴがどうしてもっつーんなら……。つか、ホームレスこそ汚ねぇんだから、一人寂しく自室の風呂にでも浸かってろよな!」

「そうだそうだ! ヒヒッ!」

「一人寂しく、柚子を回りにプカプカ浮かせてぇ? キャハハハ!」

「お前等な……勝手に変な想像してんじゃねぇよ!」


文句が文句を引き起こし、賑やかが騒々しさへと変わる。
それで居て当初の話題からずれており、最早ただの悪口大会と言っても過言ではない。


「…………はぁぁ」


普通の風呂の話だったというのに、どうしてここまで大騒ぎになってしまったのだろう。
そう、日付変更間近の時計を見つつ、イヴから盛大な溜息が零れ落ちていのだった。


Um banho de citrus

 
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