ふと空を見上げた。
 建物の隙間から見える色は、茜と言うより紺に近い。この裏路地が闇に飲まれるまで,
後数分と言った所か。

「あーあ」

 壁に背中を預けたまま座り込む。もう少し進みたかったけど、痛みに購う事ができなかった。

「馬鹿したなぁ……」
 
 流れる血と共に意識が薄れていく。思った以上に傷が深いようだ。アクマは破壊できたとは言え、出血死は避けられないだろう。
 ――私、ここで死ぬんだ……。
 仲間達は、私の事を想って泣いてくれるだろうか?
 彼は、私の事を想って涙をながすのだろうか?
 ――それは、何か、やだな。
 笑顔で居て欲しい。皆が、彼が好きだから。
 願いを込めて口を開く。言葉にすればきっと喉のイノセンスが叶えてくれる。皆の笑顔を願って、彼の幸せを願って。
 でも。

「……っ、死にたく、ない……」

 口から零れたのは、皆ではなく、自分の事だった。
 こんな時ですら自分の事しか言えない事が情けなかった。
 悲しくて、空しくて……申し訳なくて。
 それでも。

「会い、たい……よっ」

 口から零れていくのは、彼への想いばかりだった。


(君のが足りない)


いよいよ声もでなくなって。
死というよりも凍りつくような感覚で。
朽ちるというよりも無になる感覚で。

最後の最後まで貴方の事を考えていたせいか。
意識が消える直前。
貴方の声が聞こえた気がした。

 
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