「はい、なんですか?」
名前を呼ばれて振り返る。目の前に彼女が居た。
ああ、なんて綺麗なんだろう。
「アレン」
鈴のような澄んだ声。いや、鈴よりももっと綺麗な声。
その声が僕を呼んでいる。他の誰でもない僕の名前。僕だけに向けられたもの。
嬉しい。
もっと名前を呼んで。
もっと僕だけを呼んで。
「ア、レン」
「大丈夫、僕はここいますよ」
そっと細い身体を抱きしめる。力を入れたら折れてしまいそうで、でも柔らかくて暖かくて。
ああ、なんて満たされるのだろう。
「アレ、ン」
「はい」
「ア……レ」
「はい」
「コろ――シ……テ」
「嫌です」
イヴの瞳に移る僕は微笑んでいた。
「僕がイヴを殺せる訳ないじゃないですか」
今まで誰にも見せた事のない微笑み。イヴだけに見せる、イヴに教えてもらった笑顔。
「ノアには帰しません」
額へと唇を落とす。
汝の敵を愛せという言葉があるけれど、別にそれに従った訳ではない。ただ愛した人が敵側にいた。ただ所属している場所が違っただけ。
貴方もそうでしょう?
敵だから僕を愛したのではなく、僕だから愛してくれたんですよね?
「愛してます、イヴ。これからもずっと一緒にいましょうね」
滴り落ちる雫を唇で拭い、更に滑らせていく。頬、顎、首、そして唇。何度も重ねて、互いに舌を絡めて。
ああ、なんて幸せなのだろう
(どこにもいかないよ)