「う…嘘…!こんな事ありえない…っ!」


体を思い切り仰け反らせては、目の前の光景に声を荒げる。
一体何故、どうしてこんな事になったのかはわからないけれど。

ただ、コレだけは言える。


「貴方、ティキの姿を映したアクマね!?ティキにいいつけてやるー!!」

「いやいやいや、俺は俺だから。変な理由つけて逃げようとすんなって」


大声と共に背後に向かって走り去ろうとしたものの、
ソレよりも早くガシッと体を掴まれては地面から脚を浮かせられてしまった。

それでも逃げようとバタバタと脚を動かしている姿はちょっと滑稽かもしれないけど、
今はそんな事を考えている場合ではない!


「ほら、ちゃんと俺の体だ「嘘ダッ!!」って、即答ッスか」


ちょっと凹むんだけど。と
頭上から声が聞こえたような気がしたけど、否定するにはちゃんとした理由があるのです。

その理由とは――。


「ティキにはそんな犬みたいな耳と尻尾はついてないんだからァァアア!!」

「ああ、これね〜。なんか朝起きたらついててさ」


宙に浮いている手足をより一層ばた付かせる私とは逆に、
さして気にも留めていないかのような普段と同じトーンのティキの声が聞こえてくる。


「まぁ別に害がある訳でもないし、気にしなけりゃその内に治るんじゃね?」

「何でそんなに楽観的なの!?」


普通朝起きてそんな物がついてたら驚くよね?確実に慌てる筈だよね!?
やっぱりティキは普通じゃないのか…!?


「そ・れ・に」

「ヒィッ!?」


背後からふぅっと耳に息を吹きかけられては、ゾワゾワっと鳥肌が立ってしまい。

咄嗟に両手で耳を塞ごうとするも、
それよりも早くカプリと噛み付かれては一際大きな悲鳴が口から零れていく。


「折角だし有効活用しないとな」

「耳元で喋っ!!・・・って、ゆ・有効活用…?」


何気ない言葉の筈が物凄く恐ろしい言葉であるような気がするのは何故だろう。
なんていうか物凄く身の危険を感じるられずには居られないというか…!


「大丈夫だって、直ぐに違う【感じ】にしてやっからv」


――その時、私はみてしまった。
ティキの背後から見える犬のような尻尾がはちきれんばかりに振られている事を…!!


犬が尻尾を振っている時
⇒嬉しい時・喜んでいる時・何か企んでる時(※ティキ限定)


「い…っ




イヤダァァァァアアッ!!」

「うおっ!?な・なんだ!?」


大きな叫び声と共にガバリと体を飛び起しては、
先程までとは違う部屋…寝室である事に気がつき暫し茫然。


「どうしたんだよ、イヴ。怖い夢でもみたのか?」


状況が掴めずに肩で呼吸をしたまま硬直していた私へと問い掛けたのは、
隣で眠っていたのか横たわっていた体を起し驚いた表情を浮かべているティキで。


「・・・耳!!」

「へ?・・・うぉあ!?」


隣に座り込んだティキへと視線が合ったかと思えば、
先程の光景を思い出し咄嗟にティキの頭へと両手を伸ばす。


「いでででっ!!」


突然引き寄せるように髪を引っ張られた事でティキから悲鳴が聞こえるものの、
今の私にはこの癖毛の中に犬耳が隠れているのでは…!!という恐怖の方が大きく。

膝立ちするかのように体を起してはガシガシとティキの髪をかき回していく。


「ない、ない!・・・よかった!!」

「はぁ?」


ティキの頭の上に耳らしいものは見当たらず、どうやら先程のあれはただの夢だったらしい。

それこそ心の底から安堵の溜息を落としている私に対し、
ティキから訳が分からないといった表情と声があがるけれど。
(というか散々髪をかき回したせいで凄い事になってた!)


「ティキ、ずっとそのままでいてね!!」

「そのままって・・・一体どんな夢見てたのよ」


言葉と同時にぎゅーと体へと抱きついた事で、呆れながらも優しく抱きしめ返してくれた。


夢の中でさえ貴方は
狼なのね!
(それとも私がそうさせてるの?)

 
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