「イヴ」


眠っている彼女を背後から抱きしめる。力なく垂れているその手へと、自分の手を重ねる。
小さな体から伝わるのは、彼女が生きている温もり。小さな手に繋がれているのは、幾重にも巻かれた無機質な鎖。この部屋へと彼女を繋ぐ鎖。


「愛してます、イヴ」


まるで懇願するように、願うように、眠っている彼女の頭へと口付ける。初めてイヴと会った時から、僕は徐々に壊れ始めていた。



彼女が微笑む度に心が弾んで。
僕だけに笑ってくれる

彼女と話す度に心が躍って。
僕だけを見てくれる

名前を呼ばれる度に涙が出そうになった。
もっと僕だけを呼んで
もっと僕だけを必要として




――そして、その日は訪れた。
僕とイヴは同じ任務を与えられ、何時ものようにイノセンスを回収していた。邪魔をするのはレベルの低いアクマだけの、何の変哲のもないただの任務。


「危ないッアレン!」

「――イヴ!!」


けれど、その油断が僕へと牙を向き。そして、僕を庇った彼女へと傷を負わせた。

幸い命に別状はなかったけれど、それでも彼女の怪我を見て、気がついてしまったんだ。



僕のせいで彼女を消えない傷を追った。
その傷よって僕達は繋がれた、けれど

僕らは戦いの中にいる。
彼女はまた、誰かを庇って傷を負う。
僕以外の誰かの為に怪我をする。



「……嫌だ」

「? アレ――」


小さく呟いたのと同時に、僕の手は何故か彼女の腹部へと吸い込まれていた。何の躊躇いもなく。何の後悔もなく。
僕はイヴを殴り、気絶させた。多分、気がついたのと同時に、気もふれていたんだ。

彼女が傷を負った事はファインダー達も知っていた。それを利用すれば、彼女の生死を偽る事は簡単だった。

教団に帰ると、皆、泣いていた。
皆、怒っていた。
皆に、責められた。
どうして助けなかったんだ。
どうして一緒に帰ってこなかったんだ。どうして、どうして、どうして。

僕はソレを――ただ無表情で聞いていた。
いや、もしかしたら笑ってたかもしれない。もしかしたら、こんなに好かれているイヴを独り占めにできるんだと、笑顔すら浮かべていたかもしれない。

――嬉しい。

その気持ちだけが僕を支配し、皆の言葉も苦にはならなかった。寧ろ皆が僕を責める度に、イヴが僕だけのものになっていく感覚に酔いしれていた。

皆が僕を怒れば怒る程、皆の中のイヴが消えていく。泣けば泣くほど程、イヴが死んでいく。僕だけの、たった一人のイヴになる。
嬉しい。嬉しい。嬉しい。
早くイヴに会いたい。
早く僕だけのイヴに触れたい。


だから、報告を終え、真っ直ぐに彼女の元へと向かった。彼女を閉じ込めた、篭へと向かった。誰も見る事の出来ない暗い篭。誰も触れる事ができない僕だけの愛の中へ。


「愛してます、イヴ」


まるで洗脳するかのように。狂ったように言葉を囁く。この部屋と、僕と繋がっている鎖を解こうとして、傷だらけになっている掌へと何度も口付ける。


「僕には君だけなんだ」


イヴさえ居れば他には何もいらない。何も望まないから。
だから――どうか。


どうか、僕を嫌いにならないで。


の定義


時々思うんだ。
この鳥籠へ閉じ込められたのは君ではなく、僕だったんじゃないかって。

でも、それでもいいんだ。
君と共にいられるなら。
君が僕を愛してくれるなら。

僕は、それだけで幸せだから。

 
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