ノアは言わば一つの家族だ。
 人種こそ様々だけれど、ノアの力と言うもので繋がっている。
 だから、仲間意識や家族愛こそれあれど、恋愛感情を持つ者はないない。いや、持ってはいけないのだろう。


「――で、そこでまた喧嘩よ」
「懲りないね、ティキも」


 グラス片手に溜息一つ。「それでも別れないなんて変なの」と向き合う男に告げれば、彼は淡い笑みを浮かべた。「なんだかんだ言って愛しちゃってるからさ」だ、そうだ。はいはい、ゴチソウサマ。


「そっちは何かねえの?」
「んー、とりあえず今の所順調かな」


 潜入しごと恋人エクソシストも。今のところ波風なく、ゆっくり進行中と言ったところか。


「ふーん。そういや、千年公が褒めてたぜ。お小遣いアップしてもいいってさ」
「え、いらない……てかお小遣いって、子供のお使いじゃないんだから」
「んじゃ少し貸してくんね? 次で返すからさ」


 空になったグラスへと透明の液体が注がれる。ジン、いやウォッカだろうか。水で割ったとしてもアルコールは強い。酔わせて財布を緩めよう作戦なのが見え見えだ。再び溜息が、今度は呆れから来るものが落ちる。


「何に使うの?」
「プレゼント。 そろそろ誕生日なんだけど、金が少しばかし足りなくて」


 いや、それは借りたお金じゃ駄目でしょ。……なんて思うも、言葉にはしなかった。そこまで関わる義理はないし、それに。


「……ちゃんと返してよ」
「サンキュー」


 それに、ティキの嬉しそうな顔を見ると、私も嬉しくなる。惚れた弱みという奴、かな。もちろんそれも言葉にする事は決してないけれど。


「んな目で見なくともキッチリ返すって。今週の日曜はどう?」
「二、三週間は無理かな。明日からファインダーとしてエクソシストに同行するから」
「任務地は? 隙をみて抜け出せねえの?」
「帰ったら連絡するよ」
「……それまで金残しておけっかな」
「トイチでいいよ」
「かならず残して置きマス」


 よろしいと一笑したのち、席から立ち上がる。もう少し話していたかったけれど、明日の事を思えば帰らなければ。ノアと言えども疲労もすれば寝坊だってする。――のだけど、ティキに腕を掴まれつい止まってしまった。


「まだいいじゃん。もう少し付き合えよ」
「明日朝一なんだけど……。それにプレゼント買いにいかなくていいの?」
「この時間じゃ店も閉まってるって」


 笑いながらグラスへとお酒が注がれる。今のうちに三週間飲み貯めしとけ、と。愚痴なら帰ってから聞くと反論するも、帰してくれる気配は無い。どうするべきかと悩む。……いや、悩んだふりをした。だって、結果は分かりきっていたから。


「少しだけだからね」


 再び椅子を引き、向かいへと座る。満足そうにティキは笑った。


「そうこないと」


 彼は、思いもしないだろう。腕を掴まれて、引き止めてくれて嬉しかったなんて。本当は恋人の話なんてききたくないし、したくもない。他の女性なんて見てほしくないし、私自身他の人に貴方を投影したくない、なんて。――でも


「じゃあ、誕生日が近い恋人さんに」


 グラスを掲げて乾杯する。
 彼は、知らなくて良い。ううん、知らないでいてほしい。
 私がこんな想いなを抱いている事を。




憐 望

 

 ⇒ねくすと
 
 
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