唇が離れた事で、甘い吐息が聞こえてくる。
熱を含んだ瞳、唇に掛かる吐息、俺の名を呼ぶイヴの声。その全てに、ゾクゾクとした感覚が背筋を張っていく。
「もっとしてほしい?」
クスリと艶笑を零し、意地悪気にイヴへと問い掛ける。でもイヴは顔を赤くするだけで、ソレに対して返答する事はなかった。ま、分かってたけどね。
ソファの背もたれへと座っている事で、同じ目線の高さとなっているイヴの顔を覗き込む。返答する事はなかったけど、その表情を見ればどうして欲しいかは直ぐに分かる。ぼうっとしたような、いや、うっとりとした表情。つまり「もっと」って意味だ。
「キス、好き?」
表情の意味を理解こそすれど、直ぐにソレを与える事はしない。再びわざとらしい巧笑を浮かべては、イヴの頬へと片手を添え、俺へと視線を固定させる。
「好き?」
イヴの瞳を真っ直ぐに見据えたまま、同じ質問を繰り返す。さっきの質問は見逃してやったんだから、今度のはちゃんと答えて貰わないとな。もっとも、答えはもう知ってるんだけど。
「……」
それから数秒。俺に引き下がる気がない事を悟ったのか、ゆっくりとイヴが動いた。ただし、口ではなく首が。言葉の代わりにゆっくりと首が縦へと動かされる。どうやら引き下がる気がないだけではなく、わざと言わせようとしている事にも気がついたらしい。……まぁ、ただ恥ずかしかっただけかもしれないけど。
勿論、それで引き下がる程諦めが良い訳でもなければ、性格が良い訳でもない。……自分で言っててちょっと空しいけど。
「何所にされるのが好き?」
「っ!」
再びクスリと笑い声を零しては、「してやるよ?」と顔を近づける。途端にイヴの顔が更に赤く染まり、また驚いたように背中が仰け反った。
「どこ?」
咄嗟に距離を保とうとするイヴだけど、当然逃がせませんとも。もう片手をイヴの後頭部へと伸ばしては逃げ道を塞ぎ、更に顔を近づける。お互いの鼻先が触れ合う程近くに。二人の息が交わる程傍へ。
「や……っ」
「イヴ、教えて」
恥ずかしいのか暴れようとするイヴに対し、囁きかけるように声を掛ける。
多分、今の俺は物凄く意地の悪い顔でもしているんだろう。或いは愉しそうに笑っているのかもしれない。実際愉しいし。きっと、小鳥を
「言っとくけど、言うまで離してなんてやんないよ」
やや高圧的な表情で告げると、イヴの瞳が少しだけ鋭くなる。もっとも潤んだ状態で睨まれても怖くもなんともなく、逆にゾクゾクした優越感さえ感じてしまう俺はちょっと異常なんだろうか。……いや、男は皆こう言う生き物なんだよ、うん。
そんな俺の心境を他所に、俺の服の裾を掴んでいるイヴの手へと微かに篭る力。
「……く、ち」
「ん? よく聞こえなかった」
もう一回、言って。
「く、唇……っ!」
俺の服の裾を強く握っては、自棄のように声を荒げるイヴ。その顔は敗北的というか、悔しそうというか、どちらにしても紅潮しているのは確かだ。そんなイヴを見ては満足気に笑みを浮かべ、
「よくできました」
後頭部の手に少しだけ力を入れては、ご褒美と言わんばかりにお望みの場所へと口付ける。軽く押し付けたり、柔らかく啄ばんだり。それも次第に貪るように深くなり、やがて強張っていた口を強引に割っては、舌を絡ませていく。
苦しそうな声が聞こえてくるけど、解放してやる気はない。
だって好きなんだろ?
「ん……ふぁ……っ」
唇が離れる度にイヴから甘い声が零れる。聞いているだけで背筋が震えるような、身体の芯に熱が篭っていくような声。もっと聞きたいと思う反面、零してしまう事が勿体無くて、更に深く唇を重ねていく。
声も、吐息も、唇も、全部俺のもん。そう言うかのように、深く深く唇を重ねている――と。
「……ッ!」
「ん」
突如、イヴの身体がガクンッと崩れ落ちた。どうやら立っていた脚から力が抜けてしまったらしい。ちょっと激しすぎたか?
「いい事教えてやろっか」
どちらのものとも分からない糸を舐め上げつつ、俺の胸に倒れ込んでいるイヴへと言葉をかける。あらら、耳まで真っ赤にしちゃって。
「キスの格言って知ってる?」
「……格言?」
真っ赤に染まった耳へと囁きかけるようにして尋ねると、ピクリと反応を示した後で復唱する。
もう少し反応で遊びたい気もするけど、今はぐっと我慢。
「そ、キスする場所によって意味が変わるんだって」
「……何でそんな事知ってるの?」
そこは、ほら。お前を喜ばせる為に日々密かに勉強している訳よ。俺ってば健気だね。
「んで、唇は」
「唇は……?」
言葉の続きが気になるのか、真っ直ぐに俺を見つめるイヴ。興味津々といった表情にクスリと笑みを浮かべては、油断していた唇を掠め取り。
「唇は"愛情"なんだってさ」
――だからどんな答えが返ってくるか、なんて、聞かなくても分かってたんだ。
そう最初から仕組まれていた事を教えてやれば、怒っているのか、それとも恥かしいのか。やっぱりイヴは顔を真っ赤にして、また俺の胸へと顔を埋めてしまった。
それを知った上でイヴからキスをさせようとする俺は、やっぱり
加 虐 的 趣 味