「お邪魔しまーす」

 言葉と共にそっと扉を開く。幸い二人の主は共に外出中であり、部屋の中に人の姿は無い。尤も個性的な内装のせいで、人が居ても分らないかもしれないが。

「いつも思うけど、凄い部屋だなぁ」

 何度か訪れた事はあるが、何時見ても彼等のセンスには驚嘆する。勿論悪い意味ではなく、時代を先取りしていると言うか、数百年程時代誤差をしているというか。
 それでもせめてもの救いは、二人して綺麗好き、といった所だろう。洋服は勿論、品揃えが豊富なメイク道具ですらキッチリと陳列している。

「うーん」

 女である自分よりも豊富なメイク道具に、思わず複雑な唸り声。
 そういえば、今持ってる道具も二人に選んで貰ったんだっけ。服のセンスも品揃え良いし、なんだか女として負けた気がする。

「――ま、いっか」

 暫し大きな鏡台の前で複雑な表情を浮かべていたイヴだが、気持ちと身体をクルリと反転させ、部屋の中へと視線を向ける。
 これだけ綺麗ならば、改めて自分が掃除する必要も無いだろう。……でもこのまま帰るのは何だか勿体無い。と言う訳で、

「何か面白いものないかな〜」

 部屋を掃除、ではなく、物色し始めたのだった。
 これがルルやスキンであったなら、何もせずに帰ったに違いない。が、ここは悪戯大好きなパンクツインズの部屋。きっと面白いものを隠し持っている筈。

「……うーん。やっぱまずは、定番のベッドの下だよね」

 軽く部屋の中を見渡した後、ベッドへと視線を移しては「にひひ」と一笑。
 容姿やセンスこそ個性的ではあるが、中身は年齢相応の青年。ティキみたいにえっちぃ本とか持ってるのかな、とベッドの下を覗こうとした――その時、ガチャリと部屋の扉が開いた。

「忘れ物ー……って、何してんだ、イヴ」
「うわっ!?」

 直ぐ背後から部屋の持ち主であるデビットの声が聞こえ、思わずその場に飛び上がる。幸い一瞬だった為、イヴがベッドの下を覗こうとしていた事には気が付かなかったようだ。

「勝手に入って何やってんだよ」
「デデデデデビット! それにジャスデロもっ」
「ヒヒッ。しゃがんでどったの?」
「うえっ!? え、えーっと……」

 純粋なジャスデロの視線を受け、思わず居心地の悪さを感じてしまう。流石に「えっちぃ本があるかチェックしようとしてました」とは言えない。
 いや、言った所でデロは笑って否定してくれそうだが、デビットからは間違いなく雷が落ちるだろう。それも銃声付きで。

「ヒッ、もしかしてこの間借りた本を探してた?」
「え? あ、そそそそう、本! 急にあの本が読みたくなっちゃって!」
「なんだ、それならこっちにあるぜ」

 混乱して何も思いつかずにいたイヴだが、デロから思いがけぬ助け舟が渡ってきた。実際は本を貸した事すら忘れていたのだが、人生何が役に立つかは分らない。

「ほら、まぁまぁ面白かったかな」
「そ、そっか。貸してよかったよ、うん。本当に」
「ヒヒッ。そだ、イヴも一緒に買い物行こ!」
「ん、買い物?」
「ああ、今日の夜パーティやるんだってよ」

 それもクリスマスパーティ。と呆れたような口調で告げるデビットに、イヴもまた「あー……」と微妙な表情を浮かべる。
 神の生誕を祝う日。今の神を"偽者"と言っている自分達が祝うのは何だか滑稽だが、長である千年公が発案者ならば異論は言えまい。

「余ったお金でプレゼント買ってもいいんだって、ヒヒッ!」
「お前が入ったら一人頭の金が減るけど、まぁ今日は特別に許してやる」
「ホント? んじゃ、行く!」

 元々暇を持て余していたイヴに断る理由もなく、大掃除……もとい面白いもの探しもすっかり頭から消え去り、忘れ物を取りに来たジャスデビ達と共に部屋を後にしていく。

 それから数分と立たぬうちに、部屋の窓に雪が降る道を歩く三人の姿が映ったのだった。


転 ば ぬ の 杖



 
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