「はぁ〜やっとおわったさ……」

あらかた片付いた一面を見渡しては、力んでいた手と身体から力を抜く。
俺の周囲に散乱しているのは、山のように積み重なっているアクマの残骸と、建物の瓦礫の山。数こそ多かったものの、レベル1のアクマだけだったのが不幸中の幸いだったさ。


――さて、増援にいくとしますさね。


心の中で呟いては、近場で戦っているだろう今回のパートナーの元へと脚を向ける。勿論"今回"のと言うからには、あの口煩いジジィではない。パンダジジィと比べれたらまさに月とスッポン。一年中咲き誇る可憐な桜と、今にも朽ち果てそうな枯れ木程に差が有りすぎるさ。勿論、ジジイが後者だ。


――いっちょカッコよく助太刀に入って、好感度アップさせとくさね。


むふふ。なんて、戦場には不釣合いな笑いを零しながらも、建物の角を曲がる。けれど。


「あ、ラビ。こっち終わったよ」

「お、イヴお疲れさ」


曲がった所で丁度出くわしたのは、探し人であるパートナー事イヴだった。
どちらかと言うと俺が戦った場所に近い事からして、彼女の方が若干早く終わったらしい。カッコよく助太刀にいけなかったのはちょっち残念だけど、まぁイヴが無事そうだからいいか。


「ラビ、怪我してない?」

「イヴの歌のお陰で全然余裕だったさ〜♪」


やや心配気な声で尋ねるイヴとは逆に、ヘラリと破綻する俺の顔。イヴを見ていると、つい顔に締りがなくなってしまう。所謂惚れた弱みっつー奴さね。ま、本人にはマダその事言えてねぇーんだけどさ。


「イヴこそ怪我してないよな?」


肩に担いでいた槌を閉まっては、逆にイヴの身体へと視線を向ける。別に厭らしい意味ではない。全然そんな意図は含まれていな……や、そりゃ、ちょっとは「役得v」とか思ってたりもするけど、コレも彼女の為なんさ。うん。

何せイヴと言えば、教団内でも一、二を争う程に怪我が多い。イノセンス事態は珍しい補佐型だと言うのに、いっつも何処かしら怪我してる程だ。ともなれば、誰だって今の俺の様にジロジロと見てしまうに違いない。寧ろ、リナリーなんて抱きついてまで調べるてんさ。羨ましい!


「今回は弱かったから大丈夫だよ」


そんな俺の視線を受けたからなのか、ニヒヒ。と気取らない笑みがイヴから零れる。人形のような容姿をしていると言うのに、気さくというか、それを気取らない所もきっと人気の秘訣なんだろう。というか、俺が惚れた場所?


「んじゃゆーーーーーーっくり、帰るさね」

「あはは、ゆっくりしすぎっしょ」


ケラケラとイヴは笑うけど、俺としてはそれこそ数日かけて帰りたいくらいさ。
なんたって今回はジジィ無しの、まさにイヴと二人きり!! きっと日頃の行いが良い俺へのご褒美なんさ! この任務の前に会った、ユウとアレンの悔しそうな表情と言ったら……。


「ラビー? 何笑ってるの?」

「うぉっ!?」


突然下から顔を覗き込まれた事で、驚き声を上げて背中が仰け反る。端から見たら情けない光景に違いない。い……いやでも、イヴのドアップは地味に危険だから仕方がないんよ! 勿論鼓動的な意味で。
「なっなんでもないさ〜……って、ん?」


なんて思っても当然言える筈はなく、つい虚空へと視線を泳がせる。――と、ふと彼女の額が赤くなっている事に気がついた。……あれ、さっきまでなんとも無かった筈なんさけど。


「イヴ、おでこ、どしたんさ?」

「ん?どうしたって?」


イヴ自身気がついていないのか、「赤くなってる」と告げれば、彼女の手が額へと宛がわれる。


「あ、もしかして効力が切れたのかな」

「なっ! じゃあこれアクマにやられたんさ!?」


イヴの可愛い可愛い可愛い……顔を傷つけるとは、許すまじ! 既に破壊されているだろうけど、槌でぺちゃんこにしてやらないと気がすまんさ!


「あー、いや、これは……」

「うん?」

「えっと、その……ここに来る途中で地面とちゅーしてしまいまして」


ごにょごにょと言いずらそうに告げるイヴを前に、ピクリと反応を示す俺。ちゅーという言葉に一瞬意識が飛んだような気がしたけど、相手が地面だという事を思い出しては「それって」と言葉が零れる。


「つまり、転んだん?」

「ま、まぁそれに近いというか」


別に安心した事で油断してたとかそんなんじゃなくてだね! と、妙に力説するイヴ。
その姿に数秒程ポカンとした表情を浮かべてしまったけれど、直ぐに「ぷっ」と噴出してしまい。


「イヴ、可愛いさっ!」

「ぎゃあああっ!?」


堪えきれなくなって、つい小さな体へと飛びついてしまった。途端に似つかわしくないような悲鳴が聞こえたけど、それすらも可愛いと思えてしまう俺は相当重症らしい。


「ちょ、ちょっとラビ! くっつくなっ!」

「えー、実は俺も怪我してたんさ」

「うそつけっ!」


だから支えて欲しいさー。と告げるも当然通用する筈もなく、真っ赤な顔でグイグイと体を押し返されてしまう。ま、当然といえば当然だけど。

…………あ、そうだ。


「仕方ない」


唐突に自分から身体を離しては、猫のように威嚇しているイヴへと視線を向ける。顔を真っ赤にした状態で威嚇されても怖くないというか、寧ろ可愛いというか。そんな事を思いつつも、ニッコリと笑みを浮かべては。


「これで我慢しとくさ」


素早く身体を動かしては、赤くなっている場所――イヴの額へと、ちぅ。と唇を押し付けた。
イヴとしても、まさかそんな事をされるとは思っても居なかったんだろう。唖然というか、ぽかんというか、口をあんぐりと開いた状態で固まっていた。

その姿に「にひひ」とイヴと同じように笑い声を零しては、クルリと身体を反転させる。
恐らく、正気に戻ったら顔を真っ赤にして怒ってくるに違いない。そうなる前にと、そそくさと……といっても鼻歌交じりで道を歩いていった。


額へのキスは友情。
今はそこ止まりだけど、いつかその下へ(唇)とキスができる特別な存在になってみせるから――。

し と け よ ?

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -