黒の教団室長事コムイ・リー。
頭脳明晰、判断力抜群、情に厚く探究心旺盛な長身シスコン。
そして――。



「今日はハロウィンパーティーだぁーーっ! 皆盛り上げっていこーー!」

「「「おおーーーッ!!」」」



お祭り好きのトラブルメーカーである。



「わー、皆やコムイさんノリノリですねー……」


歓声を上げる仲間達をみては、冷静且やや引きながら言葉を零す白髪の少年事アレン。
最も今その儚げな白髪は大きめのカボチャの被り物によって見る事はできず。


「いや、お前が冷めすぎなんさ」


もう少しパーティを楽しめよ。と隣で狼男に扮装したラビから呆れた声が零れていた。

どうやらハロウィンパーティと称するだけあり、参加者は全員仮装をする決まりらしい。
といっても室長権限を使い教団員全員参加なので、否応無しに仮装されていると言っても過言ではなく。
言われてみれば、今の歓声が半ば自棄声だったような気がしなくも無い。
恐らく、何故好き好んでこんな羞恥を晒さねばならぬのだ…! と思っている人物もこの大勢の中に多少なりともいるだろう。

だが――何事にも良し悪しが存在するもの。


「おー、カボチャくんと狼はっけーん! 二人共ピッタリだねー」

「ほんと、よく似合ってるわ」

「イヴ、リナリー」


クスクスと笑いながら友人二人の元へと近寄ってくるのは、黒の教団名物美人姉妹であるリナリーとイヴ。
周り同様に二人もまた仮装しており、滅多に見れないだろうその姿に「仮装もいいかも」と感動した人は少なくなかったとか。


「リナリーの魔女もよく似合ってますよ」

「うんうん。で、イヴは……仮装してないんさ?」

「いやいやいや、してるでしょうに!」

「え、違うのは服ぐらいじゃ?」

「えぇぇえ!」

「ほらね。だから違う仮装にしたほうが良いっていったのに」


それじゃ誰も気がつかないわよ。とリナリーから呆れたような声が零れては、「何故だ!?」と不服な声を零すイヴ。

不憫な事に誰も気がつかないようなので、ここで説明を――。


「あ、ユウっ。ちょいこっちきて!」

「あ?」


……入れようと思ったのだが。
その前に神田が現れたので、彼を見て貰ったほうが分かりやすいだろう。


「お、ユウはミイラ男なんさ」

「ああ? しらねぇ……ひっく」

「は? って、酒くさ! また飲んでるんですかっ、神田!」

「うるせぇ、俺だって飲みたくてのんだんじゃねぇ」

「それが神田が参加しないっていうから、兄さんがお茶と偽って飲ませちゃったの」

「いや普通区別つくだろ!」

「ユウとコムイに普通は通用しないって〜。てかユウの仮装は分かったのに、なんで私の仮装は分からない訳!?」

「「へ?」」


ふら付く足取りの神田の腕を掴んでは、必要以上に身体を密着させるイヴ。

どうやら彼の仮装と自分の仮装を見比べさそうとしているようだが、青年二人にとってみれば仮装よりもくっついている方に不満があるらしく。


「イヴもミイラの仮装なのよ」


結局リナリーが助け舟という名のフォローを入れた事で、二人から「あー!」と納得の声があがったのだった。


「何故分からない!?」

「いや、それは流石に分かりませんて」

「それじゃあ仮装とはいえないさ〜」

「普段のままじゃねぇか」

「ね。皆も私と同じ意見でしょ?」


片手を軽く顔の前で左右に振るアレンと、腕を組んでは顔を頷かせるラビ。
酔っている事で抱きつかれている事に反論しない神田に、小さく溜息を落すリナリー。
そして4人全員から否定された事で落ち込んでいるイヴの姿があったとか。


「大体はろうぃんってのはなんなんだ」


ヒック。としゃくり上げながら珍しく理由を尋ねる神田に、知識が豊富なラビが「そうさなぁ〜」と、どう説明したものかと悩んだ声が零れる。


「カボチャを沢山食べる日です」

「後仮装してお菓子をたかる日」

「や。二人とも合ってるようで合ってないから」

「そうなのか」

「まて! その情報は偏りすぎさ!」

「あ〜、じゃあアレでいいじゃないですか。悪い子を連れ去りに来る日」

「でも良い子には寝ている間にプレゼントを置いていってくれるんだよ!」

「それわざと言ってね? わざと変な情報刷り込ませようとしてるだろ?」

「そうか。なら返り討ちにしてやる」

「ほら見ろ! ユウが信じちゃったさ! しかも悪い子だっていう自覚ありか!」


今夜、彼の部屋の前をただ通り過ぎただけの人が切られたりしないかと心配しているラビを他所に、教えたアレンとイヴはケラケラと笑っていたとか。
一見可愛いらしい顔をしている二人だが、その実腹の中は黒いようだ。


「でも正直な話、明日って諸聖人の日ですよね。こんなバカ騒ぎしてていんですか?」


諸聖人の日。聖人や殉教者の日であり、国によってはこの日に死者を悼む風習がある。
ハロウィンというのはその前日(イヴ)であり、クリスマスと同じく翌日の11月1日の方が重要である。
最も今日(こんにち)ではその風習も寂れつつあるが、少なくともこの教団は違う筈。
何せ宗教国であるヴァチカン所属であるし、それに哀しい事だが殉教者も少なくは無い。

ともなれば、本来なら静かに明日の諸聖人の日を迎えるべきなのかもしれないが……。


「だからこうして騒いでるんだって」

「え?」

「明日は一日中スンゲーしんみりするからさ、EVEである今日のうちにバカ騒ぎしようっていうコムイの計らいパーティらしいさ」


トラブルメーカーの名称を持っているだけに何かと問題を引き起こすコムイではあるが、それ以上に仲間を思う気持ちは強い。
恐らく皆の気持ちが沈む一方にならないようにと、このパーティを催したのだろう。


「(やっぱり凄いな、コムイさんは)」


やはりなんだかんだで仲間の事を一番分かっているのは、室長であるコムイなのだ。
もしかしたら皆の事を分かっているからこそ、信頼して色々な事をしてい――。


《リナリー、イヴちゃぁん! 僕の可愛い魔女達は何所かなー!》

「「「「……」」」」


大勢がいる広場にマイク越しのコムイの声が響いた事で、4人の中の彼の株が上がった瞬間に暴落する事となったのだった(ちなみに神田は酒のせいで殆んど聞いていなかった)


《あっ、いたいた! 二人共上がっておいでー!》


自然と周りの人々の視線が二人へと集まった事で、設置されたステージ上に居たコムイが二人を見つけ、またこちらからもコムイの姿が伺える。

主催者である為に当然コムイも仮装をしており、トレードマークのベレー帽と共に作り物釘が刺さっている所を見ると、どうやらフランケンシュタインのつもりなのだろう。
マッドサイエンティスト関係と言い、その長身と言い、中々様にはなっている。


「なーんか嫌な予感がする……」

「私も…」

《ほら、二人共はやくぅ〜!》


ヘッドセットのマイクである為に、自由が利く両手で二人を手招きするコムイ。
その顔は何時もと変わらない表情であり、それが尚の事二人の不安を掻き立てていた。
平然な顔をして恐ろしい事をするのだから全く持って性質が悪い。


《さぁ、それじゃ皆お待ちかねのハロウィンゲーム!『Trick or treat! お菓子配り徒競走!』をはじめるよー! 勝者には豪華商品事『美少女二人と行くアジア温泉旅行』プレゼントだぁああッ!!》


「「「ナニィィィ!?」」」


――やはりこの男はただのトラブルメーカーなのかもしれない。


( 天 は 二 物 を え た )

 
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