何時からか、黒い瞳が自分を見つめていた。

「……なに?」
「なんでも?」

 何故疑問系なのだろうと思いつつ、イヴは軽く相槌を打った。視線は既に目の前の男から、手元のお菓子へと移っている。
 まあるい輪っかのドーナッツ。千年公お手製のソレは、六個目と言えども飽きる事がない。サクサクの表面にふわふわの中身。甘い蜂蜜で軽くコーティングし、粉雪のような砂糖が少々。隠し味は胡麻だろうか。ほんのりと甘さを押さえ、風味をとても良くしている。
 我慢できずにイヴは口を開いた。しかし、先程のように齧り付く事はしなかった。いや、できなかった。

「……だから、さっきから何?」
「だから、なんでもないって。気にせず食ってていいよ」
「いや、目の前で見られてたら食べれないんですけど」
「気にしない気にしない。俺の事は壁とでも思って」
「眼が付いてるだけでも怖いのに、笑ってる壁とか最早恐怖以外の何者でもないですよね!」

 寧ろなんで笑ってるの!? と、イヴの背中が後ろに傾く。お化け嫌いからか、或いは目の前の男事ティキが笑っている時は碌な事が無いからか。
 そんなイヴに、ティキは軽く肩をすくめた。顔に浮かぶ笑みと共に。

「別に何かしようってつもりじゃねぇって。ただすげー美味そうに食うもんだから面白いなって」
「た、確かに美味しいけど、そんな顔してた?」
「幸せオーラ全開って感じ」

 軽く首を傾げて問うティキに、イヴは片手を自分の顔へと伸ばした。今どんな表情をしているのかは分からないが、段々と熱が募っていくのは分かる。

「そんな変な顔をずっと見てたわけ?」
「別に変な顔じゃねぇって、寧ろ」

 言葉を区切ると、ティキはケラリと笑った。



食っちゃいたいくらい可愛い
「……そ、それはドーナッツに対してデスヨネ?」
「どうだろうな?」

 
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